映論言いたい放題 Film 220 すずめの戸締まり
『すずめの戸締まり』
2022年11月11日公開
■監督・原作・脚本:新海誠
■声の出演:原菜乃華(岩戸鈴芽)/松村北斗(宗像草太)/深津絵里(岩戸環)/染谷将太(岡部稔)/神木隆之介(芹澤朋也)/松本白鸚(宗像羊朗)
■あらすじ:九州の静かな町で暮らす17歳の少女・鈴芽(すずめ)は、扉を探しているという旅の青年・草太に出会う。彼の後を追っていった鈴芽は、山中の廃墟で見つけた古い扉を開けてしまう。それは災いを世に放つ行為だった。やがて日本各地の扉が開き始める。
© 2022「すずめの戸締まり」製作委員会
合評参加者:
三浦佳子(T・ジョイ長岡 映写担当)
大竹文惠(T・ジョイ長岡 映写担当)
akko(「ムーヴィーズゴー!ゴー!」「週刊シネマガイド」出演)
和田竜哉(「ムーヴィーズゴー!ゴー!」ディレクター、「週刊シネマガイド」出演)
※「ムーヴィーズゴー!ゴー!」FMながおか(80.7MHz)毎週木曜18時30分より インターネットラジオでも聴けます!
※「週刊シネマガイド」ケーブルテレビNCT 11ch、「ちょりっぷナビゲーション」内で放送
大竹:実は、新海誠監督の作品を観たのが初めてなんですよ。今まで洋画ばかり観ていて、映写の仕事をするようになってから邦画の面白さに気づいたんですね。それで誰かにネタバレされる前に…と思って早々に鑑賞しました。
akko:初新海作品はいかがでしたか?
大竹:映像がすごいキレイで驚きました。もうどれだけ時間掛けて描いたんだろうって思うくらい。ビックリしました。
和田:いつも言ってしまいますが、新海監督は空とか雲とか自然の描写に対する並々ならぬこだわりを感じますよね。美術監督の丹治匠の存在も大きいです。
三浦:私もまず映像の美しさにグッと来ました。空もそうですが、海とか、とにかくキレイで。ただ作品としてはエンタメとしては楽しめたんですが、ちょっとモヤモヤする部分が残りました。
akko:モヤモヤする部分とは?
三浦:鈴芽ちゃんが草太と出会って、あっという間に「好き」モードが高まって、最後は自らの命を投げ出す覚悟で頑張りますよね。でもあの二人って出会ってそれほど時間が経っていないわけで。「ちょっと展開早すぎない?そんなことあるかな」という思いが…。
和田:確かにその通りなんですが、あの2人は最初からそういう運命だったのではないかと思いました。特別な関係というか。
akko:私も、あの2人は何か大きな目的に向かって進む運命共同体のように観ていたので、その辺りの違和感はそれほど感じませんでした。そういえば今回の作品は企画書の仮タイトルがそのまま本タイトルになったそうですよ。
和田:今回も「の」が入ったタイトルでしたね。
akko:ちなみに「天気の子」は当初は「天気予報の君」だったそうです。なんかだいぶイメージが違いますよね。
大竹:まるでお天気お姉さんの映画みたいですね。
三浦:タイトルに「の」が入るってジブリみたいですよね。
和田:そうなんですよ。廃墟の温泉街のシーンなんて『千と千尋の神隠し』かと思いました。作品のスケール感もどんどん大きくなってきていて、そういう意味でもジブリに近付いた感があります。
三浦:私もジブリ的なものは感じました。あのミミズとか。とりあえずデカいもの出てくると「うおーっ」って興奮しますよね(笑)あと今までの作品は歌が少しくどくて気になってしまうところがあったんですが、今回は音楽の使い方がすごくよかったですね。
和田:歌と言えば、劇中で『ルージュの伝言』を使うあたり、完全にジブリへのオマージュですよね。
akko:神話っぽいところもジブリっぽいですよね。主人公の鈴芽ちゃんの名字が「岩戸」と聞いて、天照大神(あまてらすおおみかみ)の天岩戸を連想したし。ミミズが暴れると地震っていうのもね。
和田:要石が災いを抑えるというのも、実際にありますよね。ほかにも毘沙門天が悪鬼を足で押さえつけているとか。そういう存在が厄災を封じていて、崩れると災いが起きるというのは、日本の昔からの言い伝えとしてありましたよね。
三浦・大竹:なるほど。
akko:これは劇場で配布されていた「新海誠本」を読んで知ったことなんですが、鈴芽という名前は「天鈿女命(アメノウズメノミコト)」から来ているそうです。
和田:閉じこもった天照大神を、半裸の舞いで外に誘い出した神様ですよね。
大竹:そういう部分の説明や情報が、作品の中にもう少しあれば。それにしても鈴芽ちゃんは頑張りましたよね。あの行動力には驚かされました。
三浦:行く先々で良い人に会えたから良かったものの、叔母さんが心配する気持ちも分かりますよね。
和田:九州からスタートして、いろんな人を巻き込みながら北上して行くロードムービーでしたよね。場が進めば進むほど、鈴芽も成長していって。
大竹:最後は、ああ、そういうことだったのかと思いました。全てがつながりましたよね。
akko:ですよね。運命論的になりますが「すべては最初からそうなることが決まっていたのか」と感じました。
和田:ずっと新海作品を追ってきた者としては、監督が作品と共に大きくなって行くのは嬉しい反面、おたく的要素が薄まっていくのはファンとしては寂しいような複雑な気持ちですが、また3年後の次回作へと期待が膨らむのは間違いないですね。
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