異彩世代図鑑 file.237 藤田美結

藤田美結
異彩世代図鑑

イラストレーター 藤田 美結 Miyu Fujita 24歳
線画で路地裏などの風景を描くアーティスト、フジタミユさん。本名は「藤田美結」だが、表現者として作品を発表するときには名前をカナ表記にしている。白いキャンバスに0.25mmという極細のボールペンで描く作風でやっていこうと覚悟を決めたのはわずか1年ほど前。その心境にいたるまで何があったのだろうか。

月刊マイスキップ 2020年11月号 vol.238 より転載

子どもの頃から絵を描くことが大好きだったと話す美結さん。そのきっかけは2歳下の妹が生まれたことだった。両親は赤ちゃんにかかりきりになることが多く、ひとり遊びで絵を描き始めたのだ。画材は広告チラシの裏とボールペン。いずれも手近にあったものだった。もしかしてそれが線画の原点?という問いに、美結さんは「そうかもしれません」と頷いた。その後もずっと絵を書き続け、小学生のときにはNHKの番組「児童画廊」のコーナーで作品が紹介されたこともあった。

「何か変わったことがやってみたい」という思いから、長岡農業高校の生産技術科に進学し、青果生産コースでキウイフルーツの栽培に取り組んだ。農業高校の甲子園と呼ばれる「日本学校農業クラブ全国大会」出場を目指して「果樹の糖度アップと、形をハート型にする」という研究に取り組んだ。残念ながら成形作業はうまくいかず出場も逃してしまったが「摘果を適切に行ったことで糖度を上げるのは成功しました。自分で言うのもなんですが、すごく甘くて美味しいキウイを作ることができました」と笑顔で話した。

高校卒業後の進路として、当時美結さんが思い描いていた道は2つあった。ひとつは看護・介護など福祉の仕事、もうひとつは絵を描くことだった。「いずれにしても自分の好きなことをやりたいという気持ちはありました」

熟考の末、選んだのは絵の道。新潟デザイン専門学校のイラストレーション科に進学した。現在の線画スタイルを見つけたのは1年生のとき。水彩絵の具の会社が主催するコンペに出品するため、作品を描いていたときのことだった。水彩でペンギンや人物を描き、後ろの余白部分をどうしたらいいか講師に意見を求めたところ、「線画でビルを描いてみたら?」と言われたのだ。そのアドバイスに従い作品を仕上げたときに「これが自分のタッチだ」と確信した。

「向日葵」A4サイズ、ペン・紙、植物のスケッチ、2020年8月

1年生の修了作品に取り組むときには最初から「路地を描く」と決めていた。その後授業で題材探しの時間が与えられ、古町界隈をゆっくり歩いたときに美結さんの心に衝撃が走った。今まで自分は新潟の大通りしか歩いてこなかった。この魅力的な場所を見過ごしていたことを「勿体ない」と感じた。たった1本、大通りから違う場所に足を踏み入れるだけで、街は違った表情を見せる。そこに人が暮らしている息吹を感じ取った美結さんは、心が震えるほど感動した。そのときに描いた作品は学内の修了制作展で作品賞をもらい、評価された手応えを感じると同時に「自分の中で線画と風景画がつながる」きっかけにもなった。

長岡の風景を描いた「寂」F8サイズ、ペン・キャンバス、2018年6月

卒業後は、新潟市中央区のギャラリー蔵織で「グループ展」「二人展」と展覧会を2回開くことができた。となると次は個展?「そうですね。それが今の目標です」

街の風景は時代と共に変わって行く。絵に描き残すことで自分や皆の記憶にとどめておきたい、そんな気持ちでペンを握っている。「風景画がきっかけで地域の歴史にも興味を持つようになりました。まだ学び始めて日は浅いですが、その土地の歴史を知った上で、景色に向き合うと感じるものも違うように思います」

ディープな場所が好き、と語る美結さん。「いつか新宿の歌舞伎町とか思いっきり雑多な場所にも向き合ってみたいですね」と話した。(了)

10月24日よりギャラリー「蔵織」(新潟市中央区)にて、藤田さんの作品が展示販売されています

和田明子 Akiko Wada

リバティデザインスタジオスタッフ/かわいいもの探求家。 新潟日報「おとなプラス」、県観光協会のサイト、旅行情報サイトなどさまざまな媒体にライターとして寄稿し...

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