映論言いたい放題 Film 223 フェイブルマンズ

映論言いたい放題

『フェイブルマンズ』
2023年3月3日公開
■監督:スティーヴン・スピルバーグ
■脚本:スティーヴン・スピルバーグ&トニー・クシュナー
■出演:ミシェル・ウィリアムズ(母・ミッツィ)/ポール・ダノ(父・バート)/セス・ローゲン(両親の親友・ペニー)/ガブリエル・ラベル(サミー・フェイブルマン)/ジャド・ハーシュ(ボリス伯父さん)
■あらすじ:初めて映画館を訪れて以来、映画のとりこになったサミー・フェイブルマン少年。技術者の父と、音楽家の母に見守られながら、彼は手に入れた8ミリカメラで映画制作に乗り出す。スピルバーグの自伝的作品がついに映画化。
© 2023映画「シャイロックの子供たち」製作委員会
合評参加者:
 三浦佳子(T・ジョイ長岡 映写担当)
 akko(「ムーヴィーズゴー!ゴー!」「週刊シネマガイド」出演)
 和田竜哉(「ムーヴィーズゴー!ゴー!」ディレクター、「週刊シネマガイド」出演)

※「ムーヴィーズゴー!ゴー!」FMながおか(80.7MHz)毎週木曜18時30分より インターネットラジオでも聴けます!
※「週刊シネマガイド」ケーブルテレビNCT 11ch、「ちょりっぷナビゲーション」内で放送

三浦:観たい!と思っていた作品で、面白かったんですが最初思っていたのとちょっと展開が違いましたね。もっと映画作りの工程とか、ハリウッドに行ってからのことも描いているのかと思っていたんですよ。

和田:そういう感想を持つ人が多いみたいですよ。スピルバーグの自伝的作品と言われたら、ハリウッドでのサクセス・ストーリーを期待しますよね。

akko:タイトルの『フェイブルマンズ』は「フェイブルマン家」という意味だそうです。映画監督としての物語というよりは、ひとりの少年がなぜ映画を志すことになったのか、その原点として家族の物語を描いた作品ですよね。

和田:父親が優秀なコンピューター・エンジニアで、母親が自由奔放なアーティスト(ピアニスト)で、まさにその二人の血を受け継いだ子どもでしたね。家族間にはいろいろあったけれど、愛情を受けて育ったことは間違いなく、それでまっすぐに進むことが出来たんでしょうね。

三浦:自身の人生に起きることの全てを、映画作りの糧にしているところがすごいと思いながら鑑賞していました。

和田:おばあちゃんが危篤状態で皆が悲しんでいる時に、呼吸が止まる瞬間、いわば死の瞬間を見届けようと首の辺りを凝視している場面はぞくぞくしました。あれは完璧に表現者の視線でした。

akko:死といえばスピルバーグの父親は2020年に103歳で逝去しています。この作品は母親の不倫問題も描いているため、いずれは描きたかったけれど、当事者たちが健在なうちは封印していたそうです。

三浦:そうだったんですか。ということは、やはり実話なんでしょうか。

和田:そうだと思います。「この物語を語らずに自分のキャリアを終えるなんて、想像すらできない」と本人が言っていますからね。

三浦:お母さんのことも、家族を撮影したフィルムを編集しているときに表情で最初に気づくじゃないですか。あの辺りはすごかったですよね。

和田:母親が自分の一番の理解者であり、おそらく兄妹の中で最も母に近い存在の子どもでしたよね。だからこそあのショックは大きかったでしょうね。

三浦:彼女は家族として父や娘には愛されていましたが、アーティストとしての自分を理解してもらえない辛さみたいなものを抱えていて、おそらく息子だけが家族の中で唯一の理解者だったような気がします。

akko:だからこそ、憎み切れないというか。

三浦:その母親の不倫を知って以降、サミー少年の表現により深みが増していったというところにも凄みを感じました。

和田:高校で撮影した卒業生向けの記録映画とか、さすがの出来でしたね。

akko:ビーチで過ごした楽しい1日を、青春の記録として残すという趣向のあれですね。

和田:自分をいじめていたヤツを、描写対象としてしっかり評価していて。カモメのフン爆撃をアイスクリームを使って表現するアイデアとか、大したものだと思いながら観ていました。

akko:あのシーンは映像の怖さの象徴ですよね。映画監督は現実を変えて伝えてしまうこともできるという。だからろくでなしをヒーローに仕立て上げることも出来ちゃう。

和田:最後に巨匠ジョン・フォードが出てきますよね。それを演じていたのが、なんとデヴィッド・リンチ。出演者一覧に名前があったのでいつ出てくるんだろうと思っていたら、まさかの役でした。

akko:サミーが「大物に会える」ことになって、壁の写真とか観て「え?うわぁ、フォード監督なの?」ってどんどん緊張していくのを表情だけで見せていて、観ている私もドキドキしました。

三浦:あのシーンよかったですよね。超個性的で、リンチ監督にぴったりでしたね。地平線の撮り方の教授シーンとか最高でしたね。

akko:あれも深くて、常に最上か最低を狙えっていうのは、映画の撮り方と人生、両方の暗喩でしたよね。

三浦:この後、どうなっていったのか。気になりますね。

akko:おそらく映画業界で成功するまでは大変な物語があったと思います。そういう部分も含めて、どうやって成功していったのか、続編を撮ってほしい。

和田:せめて『激突』『ジョーズ』あたりまでは、観たいですね。

T・ジョイ長岡 2023年4月オススメ映画

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© 「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社

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