植物×鳥×ケモノ ─なぜ集める? どう守る?- at 長岡市立科学博物館

アート・展覧会

長岡市立科学博物館で開催中の企画展「植物×鳥×ケモノ ─なぜ集める? どう守る?」。収集した標本は、全てを展示しきれないほど収蔵庫に揃っているのに、なぜ集め続けるのか?そしてそれをどのように守り、活用するのか?普段、展示室を見ているだけでは知ることができない、博物館の役割や意義について伝える企画展だ。鳥類担当の鳥居憲親さん、植物担当の櫻井幸枝さん、お二人の学芸員の案内で見て回った。

そもそも「標本」とは何か

展示内容は大きくわけて5つ。まずはそもそも標本とは何か、という説明から始まる。題して「いろいろな標本─それぞれの姿、それぞれの事情─」だ。長岡市立科学博物館は、自然系4部門・人文系4部門の計8部門を扱う総合博物館だ。そのため収集や収蔵も多岐に渡る。鳥居さんは「何かひとつに特化した博物館は、同じような形式のものが集まるため、課題も集約されていくが、当館のように多分野に渡る収集をしているところは、そうはいかない」と説明。今回は植物、鳥、ケモノ(動物)という私たちに馴染みある3つをピックアップ。それぞれの標本を並べることで、その違いが一目で分かるようになっている。

植物、鳥類、動物の標本が並ぶ。それぞれの標本の性質が書かれたパネルと共に展示されており、分かりやすい

次のコーナーには、段ボール箱12箱にぎっしりと保管されている植物標本が、その隣には羽を広げた姿の白鳥の標本が置かれており、説明パネルには「3,600:1」とある。果たしてこれは何の数字か。答えは同じスペースで保管できる標本数の違いなのだ。鳥居さん曰く「鳥や獣などの展示用剥製は、とにかく場所を取るということを伝えたかった。収蔵庫のスペースは限られているため、大型の剥製を所蔵するにあたっては、相当吟味して決断している」そうだ。

同じスペースで収蔵できる数が、植物標本の3,600に対し、鳥類標本は白鳥1羽のみ

なぜ集めるのか?

博物館には現在、収蔵庫に相当数の標本がある。「それならもう集める必要がないのでは?」と考える人もいるようだが、「標本は数が増えるほど、情報としての価値が高まっていく」と鳥居さんは話す。

その事例として、櫻井さんは自身が大学時代に行った野性のサルビア(ミヤマタムラソウとアキノタムラソウ)の研究について紹介した。当時、この2種のサルビアは新潟県内での分布が不明だった。そこでかつて採集されたサルビア属の標本を調べることにした。一度調べたものでも、他の標本と比較して気になる部分があればまた再調査という作業を続けた。結果、野性のサルビアの分布結果は、アキノタムラソウは佐渡、ミヤマタムラソウは本県本州側の山地と、生育場所が明確に分かれていることが判明したのだ。「調査は大変な作業ではあるが、より多く調べたほうが精度も上がるし、説得力のある結果になる」と解説した。

野性のサルビアの植物標本。両種の標本が数多く残されていたことで、この調査は可能になった

また鳥類研究の事例として、鳥居さんは「ミサゴ」の標本を紹介。ミサゴは別名「魚鷹」とも呼ばれており、エサは海で捕獲した魚だ。そのため魚から摂取した水銀が蓄積し、繁殖がうまくいかない事例が見つかり問題になっていた。しかし野外でミサゴを捕獲することは難しく、水銀暴露状況の詳細は不明な状態だった。
そこで筑波大学は、ミサゴの標本の羽毛から水銀を抽出することで、実体を解明しようとした。全国各地の博物館に協力を依頼し、長岡市立科学博物館もそれに応えた。展示されているミサゴの標本を見ると、羽毛を取った跡が分かる。「この標本を作った当時には、羽から水銀を抽出する技術はなかった。でも大切に引き継いだからこそ、後の時代に役立ったわけです。標本は科学技術の進化によって、未来で大きく貢献する可能性を秘めている。だからこそ、集めて残していくことが大切なんです」と鳥居さんは力強く語った。

野鳥は基本的に採集が禁止されているため、博物館の標本は貴重な情報源だ

どうやって守っていくのか

「そこに宿る情報を、可能な限りそのままの状態で未来に届けることは博物館の使命のひとつ」と展示パネルに書かれていた。標本が劣化する三大原因はカビ、害虫、紫外線だ。かつては薬品散布を行い、一気に防カビ・殺虫を行っていたが、近年は環境問題なども加味して、IPM(総合的有害生物管理)という取り組みが行われている。

害虫により損害を受けた植物標本と燻蒸作業の様子

このIPMについて学芸員のふたりは「分かりやすくシンプルに言うと『日々の努力の積み重ねで、マメに対応していくしかない』ということに尽きる」と話す。徹底した温湿度管理、害虫用の粘着トラップの設置など、地道な作業を続けることで標本を守っているのだ。薬剤を使わない低温殺虫技術も導入が進んでいるものの、これは植物には向いているが、鳥類や動物では難しいなど、標本の管理についてはまだまだ課題が多く残されているそうだ。

大切な標本を守るため、学芸員は日々努力している

知っていますか?標本士という存在

次は「標本士」についての紹介コーナーだ。海外では学芸員と連携しながら、剥製標本の作製や収蔵管理を行っている、博物館には欠かせない存在だという。彼らは高い技術を持ち「この個体をこんな風に見せたい」という要望に細かいところまで応えてくれるそうだ。また一度ポーズを作った標本を元の状態に戻す事は相当難しいが、技量のある標本士なら可能なこともあるという。まさに標本の保存・管理・活用補助のエキスパートのような存在だが、日本ではこの仕事はまだ定着していないという。

標本を作るための道具も展示されている

展示でひときわ目を引いたのは、広げられていたカワセミの羽だった。ブルーの美しい羽のイメージが強いが、意外にも羽の内側は黒くなっていた。「羽がキラキラ輝くところを見せるような状態で、かつ青や黒などの色も分かる。学芸員が使いやすい標本を熟知されている方が作るとこうなります」と鳥居さんは話す。

美しいカワセミの羽

標本から芽覚める未来

最後のコーナーは「標本から芽覚める未来」だ。科学技術の進歩で過去の標本が役立つことがあるという事例を紹介したが、状態の良い植物なら数十年前、方法によっては100年前の標本から種を取り出して、発芽させることも可能なのだとか。櫻井さんは「特別な処理を施したものではなく、段ボール箱で収蔵していたごく普通の標本でそれが出来てしまうというのがすごいところ」と、標本の持つ可能性を嬉しそうに語った。

SFの世界が現実に…まさに標本の世界ではそれが起きていた(提供:新潟大学旭町学術資料展示館)

今回の企画展に合わせて、長岡市立中央図書館とコラボイベントを開催している。中央図書館に生きもの、標本、博物館に関する図書コーナーを設置し、さらに生物標本も合わせて展示される。(〜7月7日まで)

また科学博物館では「熱中!感動!夢づくり教育」として「発見の部屋─ミュージアム・ラボ─ 生物標本を見てみよう」を小学生以下の子どもを対象に6月22日に開催する。
時間:9時30分〜12時/13〜16時。
※時間内は入退場自由、参加無料、事前申込不要

ご案内いただいた植物担当の櫻井幸枝さんと、鳥類担当の鳥居憲親さん

長岡市立科学博物館
植物×鳥×ケモノ ーなぜ集める? どう守る?-
2024年5月1日〜7月7日
新潟県長岡市幸町2-1-1 TEL:0258-32-0546
休館日:第1・3月曜日
午前9時〜午後5時(最終入館は閉館30分前まで)
観覧料:無料

リバティデザインスタジオ

新潟県長岡市のデザイン事務所。グラフィックデザイン全般、取材・撮影・ライティング・編集などの業務を展開。

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