この夏、リニューアルした大地の芸術祭の2大拠点へ!

アート・展覧会

3年に1度のお楽しみで、会期中何度も長岡から通うことになる一大アートイベント「大地の芸術祭・越後妻有アートトリエンナーレ」。今年2021年は8回目の開催年に当たっていたが、新型コロナウイルス禍を受け残念ながら延期となってしまった。しかし開催に向けて準備が進められていた十日町市内の2大拠点が、作品を大幅に入れ替えリニューアルオープンしたと聞いたら、もうじっとしてはいられない。早速訪ねてみた。

まずはまつだい「農舞台」へ!

イリヤ&エミリア・カバコフ「棚田」

まず最初に向かったのはまつだい駅にほど近い、まつだい「農舞台」だ。ここは大地の芸術祭を象徴する作品のひとつ、イリヤ&エミリア・カバコフさんの「棚田」が見られる場所だ。これを見ると「芸術祭の土地に来たぞーっ」という気分にいつもなってしまう。何度見ても飽きない作品のひとつだ。

東弘一郎「廻転する不在」

館内にはカバコフさんの新作が複数展示されているとのことだが、館の外でまず出迎えてくれた新しい作品が、東弘一郎の「廻転する不在」。スタッフが立ち会えば作品に上がって自転車を漕いでみることができる体験型展示だ(※身長などの条件あり)。黒い台の上に設置された前方の自転車を漕ぐと、後ろの自転車たちがクルクルと風車か観覧車のように回るという仕掛けがあるのだ。作家本人のコメントによると「実際に十日町市で自転車を収集」して作った作品だそうだ。

カバコフの紡ぐ新たな世界

イリヤ&エミリア・カバコフ「10のアルバム 迷宮」

それではいざ農舞台の内部へ!最初に観た作品はイリヤ&エミリア・カバコフさんの「10のアルバム 迷宮」だ。旧ソ連時代の1970〜74年にかけて制作されたもので、10人の夢想家を主人公にした物語とドローイングが描かれたアルバムが展示されていた。クネクネとした通路に沿って観賞していくスタイルになっており、まさに展示スペースがちょっとした「迷宮」のようだった。

「10のアルバム 迷宮」より

物語は不条理かつシュール。クローゼットに閉じこもって出てこない「彼」が主人公の物語では、家族が力ずくで出そうとすると悶え泣きするので放っておくことにする。しかし3日間物音がしないため開けて見ると、そこには誰もいなかった。部屋には常に誰かがいたため気付かれずに脱出するのは不可能。果たして彼の身に何が起きたのか……などなど。

イリヤ&エミリア・カバコフ「プロジェクト宮殿」

次に向かったのは同じくカバコフさんの「プロジェクト宮殿」だ。旧ソ連に暮らす架空の人たちが夢見たプロジェクトが展示されている。最初のバージョンは1995年に作られ、ドイツのエッセンで常設展示されているそうだ。妻有ではその中から選りすぐった5点が再制作された。

「プロジェクト宮殿」より

これは「高いハシゴに登って自らを危険な状況に置くことで天使に迎えに来てもらおうとする計画」の展示だ。やはりこちらもシュールな文学のような世界が展開されていた。

イリヤ&エミリア・カバコフ「アーティストの図書館」

「プロジェクト宮殿」の奥にはもうひとつの作品「アーティストの図書館」がある。カバコフさんにとって図書館や古文書館は「記憶の場」であり重要なテーマのひとつなのだとか。アート関連の書籍が置かれており自由に閲覧ができるようになっていた。椅子も机も木製でとても座り心地が良く「公立の図書館がこんな読書環境だったら良いのに」と思うような空間だった。

まるで本当の教室、引き出しには仕掛けがいっぱい

「関係 – 黒板の教室」(教育空間) 河口龍夫

農舞台に来ると、必ず立ち寄るのが「『関係 – 黒板の教室』(教育空間)」だ。
まるで本物の教室のようなこの場所は、実際に地元の小学生を招いたこともあるそうだ。大きな窓からは緑豊かな里山の風景を見ることができる。こんな環境で勉強できたら、さぞかし楽しいだろうなと思いを馳せた。

机の天板を開けるとさまざまなものが…

この教室に並べられている机は木造の古いタイプで、天板部分が持ち上がるようになっている。これを開けてみると思いがけない楽しい仕掛けが待っている。

引き出しにも

さらに引き出しにも仕掛けが!
前のほうの席は優等生の子で、一番後ろは不良っぽい子の定位置だったなあとか、いろいろ想像しながら中に入っているものを観賞してみるのも楽しい。小さな文字で、それぞれに個性的なタイトルが付けられているのでお見逃しなく!

トイレにも楽しい仕掛け

君はこのトイレから出られるか?

農舞台はトイレもすごい。なんと中が真っ赤!そして写真で分かるように、トイレから出ようとするとなぜか扉が3枚も。一つだけが本物の扉で他は動かないのだが、初めて入るとパニックになり開かない扉をガチャガチャやってしまうことになる。だがよく観察すれば本物は他と違う点があることに気づけるかもしれない。

天井に注目。里山食堂のアート

「越後まつだい里山食堂」では平日に里山ごはんなどの食事メニュー、土日祝日はランチビュッフェを提供している。こちらを訪ねた際にはぜひ天井に注目してほしい。地元の自然を映した写真が並べられており、下のテーブルにそれを映し出すという演出がなされている。

常設展示大幅入れ替えでキナーレからモネへ

越後妻有里山現代美術館MonET(モネ)

次に訪ねたのは「越後妻有里山現代美術館MonET(モネ)」だ。ここは2003年に「越後妻有交流館・キナーレ」として誕生し、2012年に一部が「越後妻有里山現代美術館[キナーレ]」とし生まれかわった場所。それから9年の時を経て、改修を加えて常設作品を半分近く入れ替えてリニューアルしたのだ。ちなみにMonETはMuseum on Echigo-Tsumariの頭文字だ。

リニューアルした館内は、越後妻有里山協力機構のスタッフ・芝山祐美さん曰く「今までは広い空間だったが、企画展示室に壁を設けて作品に集中できるようにした」そうだ。建築物のリニューアルを手掛けたのは、京都駅や梅田スカイビルなどで知られるこの建物の設計者・原広司さんだ。

テントシートで仕切られた企画展示室

現在はリニューアル記念企画展として「森山大道展『彼岸は廻る─越後妻有版《真実のリア王》」が開催中だ。これは2003年・第2回の大地の芸術祭で「農舞台」のこけら落としとして演劇「越後妻有版《真実のリア王》」が上演された時の様子を記録したドキュメンタリーだ。出演者はすべて地元の老人たち。上演の翌年には写真集が刊行されたが、今回の企画展はそこに収められたものを再構成した展示となる。
なお会場には森山さんの作品としては珍しいカラー写真も展示されている。

マルニクス・デネイス「Resounding Tsumari」

新たに加わった作品のひとつがオランダの作家、マルニクス・デネイスさんの「Resounding Tsumari」だ。コントローラを使って妻有の大地を俯瞰しながら観賞するもので、まるで飛行機を操縦しているような、鳥になったような気分を味わえる。アート鑑賞と言いつつ、ちょっぴりアトラクション気分も味わえた。
本来はこの土地の音を録音したものをサウンドとして使う予定だったが、コロナ禍で作家の来場が叶わなかったため、今は別の音が使われているのだとか。完成したらどんな音が流れるのだろうか。今後が楽しみな作品だ。

目「movements」

ムーブメントと針だけの時計が無数に吊された圧巻の空間は、ムクドリの群をイメージして作られたのだとか。窓から差し込む光が反射してキラキラと光る様子が美しかった。およそ8千個の時計が使われているそうだ。

ニコラ・ダロ「エアリエル」

こちらは「エアリエル」という作品だ。エアリエルとはシェイクスピアの「テンペスト」に登場する嵐を起こしたり幻覚を見せたりする大気の精のこと。パラシュートの布で作られたふたつの吊された人形が、チューブを通して送られた風でランダムな動きを見せる。アクセントとして聞こえてくるコンコンという音は、地元の人たちがかつて使っていた古民具を生で叩いて出している音だ。

ニコラ・ダロ「エアリエル」ムービー

見ていると少し不気味ながらもなんとも言えない幸福感に包まる不思議な作品だった。
このニコラ・ダロさんの2018年の作品「上郷バンドー四季の歌」も傑作だ。越後妻有「上郷クローブ座」で土日祝のみ公開中なので、機会があればこちらもぜひ!

ニコラ・ダロ「上郷バンドー四季の歌」(2018年撮影)
名和晃平「Force」

黒い液体が流れ落ちてくる作品。タイトルは「Force」だ。フォースというとSF好きの人なら「フォースと共にあらんことを」というあの映画のセリフを思い出すのではないだろうか。使われている液体はシリコンオイル。芝山さん曰く「温度差による変化がない液体で揮発もしない。そこに着目」した作品と説明してくれた。
滴り落ちるオイルは溢れることなく、美しく循環している。その様子を見ていると「持続可能=SDGs」を連想してしまった。

中谷ミチコ「遠方の声」

2018年の大地の芸術祭で、地元の人たちから聞いた昔話などをベースに作品を作った中谷(なかたに)ミチコさんの新作「遠方の声」は、内側に掘り込まれたレリーフだ。2021年はコロナ禍で以前のような来県が叶わず、前回の芸術祭の記憶を元に今回は制作したそうだ。移動しながら見ると立体的に動いているように感じ、面白い。これは言葉や写真では伝えにくいため、ぜひ実物を観賞してほしい。

レアンドロ・エルリッヒ「Palimpsest: 空の池」

作品そのものは変わっていないが、ささやかに鑑賞環境がリニューアルされたのがMonETを代表するこの作品だ。建物2階のベストビューポイントにあった窓枠を取り払って視界をワイドにしたそうだ。「もうすでに1回見たから……」という人も、新たなビューでもう一度体感してほしい。

新作だけを見ていてもあっという間に時間が過ぎてしまう。1回じゃ足りない、1日じゃ足りないと何度でも足を運びたくなるのが「大地の芸術祭」だ。本祭の来年にはどんな感動に出会えるのだろうか。今から待ち遠しい気分だが、ぜひこの2拠点のリニューアルでまずは楽しんでほしい。

まつだい農舞台
新潟県十日町市松代3743-1 TEL:025-595-6180
火水曜休館(祝日の場合は翌日休館)
農舞台フィールドミュージアムセット:一般1,000円、小中500円
農舞台単館券(郷土資料館含む):一般600円、小中300円

越後妻有里山現代美術館 MonET(モネ)
新潟県十日町市本町6-1 TEL:025-761-7766
水曜休館(祝日の場合は翌日休館)
常設展示:一般800円、小中400円
特別企画展(常設展示含む):一般1000円、小中500円

リバティデザインスタジオ

新潟県長岡市のデザイン事務所。グラフィックデザイン全般、取材・撮影・ライティング・編集などの業務を展開。

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