映論言いたい放題 Film 205 すばらしき世界
『すばらしき世界』
2021年2月11日 公開
2021年10月6日 Blu-ray&DVDリリース、配信開始
■監督・脚本:西川美和
■原案:佐木隆三『身分帳』
■出演:役所広司(三上正夫)/仲野太賀(津乃田龍太郎)/橋爪功(庄司勉)/梶芽衣子(庄司敦子)/六角精児(松本良介)/北村有起哉(井口久俊)/白竜(下稲葉明雄)/キムラ緑子(下稲葉マス子)/長澤まさみ(吉澤遥)/安田成美(西尾久美子)
■あらすじ:殺人を犯し服役していた元ヤクザの三上正夫が、刑期を終えて出所した。人生の大半を裏社会と刑務所で過ごした三上は、今度こそカタギになると誓っていたが、世間の風は冷たかった。身元引受人の弁護士・庄司らの助けを借りながら自立を目指す三上には、生き別れになった母を見つけたいというもう一つの目標があった。それに目をつけたテレビ業界の人間が、母親探しをエサに近づいてくる。直木賞作家の佐木隆三が、実在の人物をモデルに綴った小説「身分帳」を原案にした作品。
© 佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会
合評参加者:
三浦佳子(T・ジョイ長岡 映写担当)
池田直樹(T・ジョイ長岡 映写担当)
akko(「ムーヴィーズゴー!ゴー!」「週刊シネマガイド」出演)
和田竜哉(「ムーヴィーズゴー!ゴー!」ディレクター、「週刊シネマガイド」出演)
※「ムーヴィーズゴー!ゴー!」FMながおか(80.7MHz)毎週木曜18時30分より インターネットラジオでも聴けます!
※「週刊シネマガイド」ケーブルテレビNCT 11ch、「ちょりっぷナビゲーション」内で放送
池田:裏社会で生きている人を容認してはいけないのかもしれないですが、この三上(役所広司)という男には共感できる部分がたくさんありました。
akko:優しい人でしたよね。
三浦:そうですよね。根はいい人で。
和田:この話には元になった小説があるんですよね。
池田:それは知らなかった。
和田:三上と同じように人生の大半を刑務所で過ごした男が、職探しをしようとするノンフィクションノベルです。ただ映画とは時代が数十年ずれていて、原作のモデルになった人は戦後の混乱で孤児になってしまい裏社会に身を投じたという経歴でした。
akko:ちょうど『仁義なき戦い』の頃の人ですよね。
和田:そうそう。あの頃と今では全く世情が違うんだよね。
池田:この映画の公開時、ちょうど『ヤクザと家族』という映画も公開されて、更正や社会復帰の難しさなど同じようなテーマだと感じました。
三浦:この映画に出てくる人たちは皆優しかったですよね。もし自分の身近に三上のような人がいたら、私はあんな風に接することはできないと思います。
池田:それにしても『孤狼の血』でマル暴の刑事をやった役所さんが今度は元ヤクザですよ。いきなりの180度転換で驚きました。
akko:『孤狼の血』の刑事も、紙一重みたいな凄みのある役でしたけれどね。
和田:本当に役になりきれる人ですよね。
三浦:三上は短気でよく映画の中で切れていましたが、その前兆としてスーッと目が鋭くなりますよね。演技とは分かっていても、あの表情をする度に怖くなってドキドキしました。
akko:本当に迫力ありました。この映画、三上が主人公ではありましたが、彼を取り巻く人たちの姿を通して観客自身が試されているように感じました。
和田:最初は三上を取材対象として見ていたけれど、そのうちに共感して変わっていく津乃田(仲野太賀)は観ている僕たち自身を反映しているようでしたね。
akko:食事とか掃除とか、誰もが当たり前にしている日々の営みが、こんなにも穏やかで幸せなことなのかと、三上の生活を通して感じさせられました。
和田:本当に周りの人たちの優しさが身に染みましたね。個人的には六角精児さん扮するスーパーの店長に泣かされました。まさか六角さんに泣かされるとは(笑)
池田:僕は三上がみんなと一緒にお祝い会みたいなことをしてもらう場面が好きですね。孤独で家族のいない彼に訪れた安らぎの時間でした。
三浦:私は感動シーンが多くて……何度も映画を観ながら泣いてしまいました。中でもグッと来たのはお風呂で津乃田が三上の背中を流すところでしょうか。本当に素晴らしいシーンがたくさんある映画でしたよね。
和田:それだけにあのラストが辛い。
akko:私はあれでよかったような気がします。本当の幸せや豊かさって何だろうって三上の姿を通して考えさせられました。
T・ジョイ長岡 2021年9月オススメ映画
『MINAMATA─ミナマタ─』
2021年9月23日公開
アメリカのフォトジャーナリスト、ユージン・スミスは、妻のアイリーンとともに、1971年から3年間、熊本県の水俣に住みながら取材を続け、写真集『MINAMATA』を出版。世界中に反響を巻き起こし「水俣病」の実体を知らしめた。実話をベースにした作品。
© 2020 MINAMATA FILM, LLC © Larry Horricks
『クーリエ:最高機密の運び屋』
2021年9月23公開
人類史上もっとも第三次世界大戦に近づいた13日間と呼ばれる歴史的出来事「キューバ危機」。情報の受け渡しに活躍していたのは、エリートスパイではなくごく普通のセールスマンだったという、驚愕の史実の映画化。
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