映論言いたい放題 Film 224 仕掛人・藤枝梅安 1・2

映論言いたい放題

『仕掛人・藤枝梅安』/『仕掛人・藤枝梅安2』
2023年2月3日公開/4月7日公開
■監督:河毛俊作
■原作:池波正太郎
■出演:豊川悦司(藤枝梅安)/片岡愛之助(彦次郎)/菅野美穂(おもん)/高畑淳子(おせき)/小林薫(津山悦堂)/椎名桔平(井坂・峯山)/佐藤浩市(井上)
■あらすじ:品川台町で鍼医者を営む藤枝梅安には仕掛人(殺し屋)という裏の顔があった。梅安は依頼された「仕掛」で、相棒の仕掛人・彦次郎と共に、それぞれの因縁と向き合うことになる。原作者・池波正太郎の生誕百周年を記念して製作された作品。
© 「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社
合評参加者:
 三浦佳子(T・ジョイ長岡 映写担当)
 akko(「ムーヴィーズゴー!ゴー!」「週刊シネマガイド」出演)
 和田竜哉(「ムーヴィーズゴー!ゴー!」ディレクター、「週刊シネマガイド」出演)

※「ムーヴィーズゴー!ゴー!」FMながおか(80.7MHz)毎週木曜18時30分より インターネットラジオでも聴けます!
※「週刊シネマガイド」ケーブルテレビNCT 11ch、「ちょりっぷナビゲーション」内で放送

和田:この映画、独特の殺し屋用語みたいなのが出てきて興味深かったですよね。殺しの仕事が「仕掛」で、仕切っている元締めが「蔓(つる)」、そして依頼人が「起り(おこり)」。

akko:江戸時代はそんな言葉であの裏家業が成り立っていたのかと思ったのですが、どうやら原作者の池波正太郎さんの造語らしいですよ

三浦:映画館で特報を観たときから「この映画絶対に面白い!」と思って鑑賞を決めていた作品でした。実際に観て、あまりのかっこよさに鳥肌が立ちました。

akko:ああ、分かります!1作目で豊川悦司さん扮する梅安が仕掛をして、その後にタイトルが入りますよね。こらえましたが、周囲に誰もいなかったら叫びたいくらいかっこよかったです。

和田:江戸の町が昼から夜になり、ぼんやりした灯りが川面に映って…。風景を見せているだけなのに、ため息が出るほど美しかったですね。

三浦:昼間も障子越しの明かりくらいしかなくて。情緒がありますよね。考えてみれば昔は今のように明るくないですからね。

和田:静かなシーンではBGMを排して、ロウソクが燃える音、鉄瓶のお湯が沸く松風、そういった生活音が実に効いていて、逆に静謐さが強調されていました。特に良かったのが「1」で梅安さんが彦さんと2人で年越しをするシーン。もうたまりません!

akko:人生には、大きな喜びや感動はないけれど、何気ないひとときがこそが幸せなんだという忘れがたい時間がありますよね。それを見事に表現していたように思いました。

和田:あの1作目の情緒が好きなんですよね。ロウソクの光だけで撮っているような暗さ、フィルムノワールのようなクールな登場人物たち。まさに時代劇のヌーベルバーグと言っても過言ではありません。

三浦・akko:同感です!

和田:監督が1作目はヨーロッパ映画で、2作目がアメリカ映画と表現していたようです。2作目は「男祭」、「男臭いエンターテインメント」とも言っていましたね。

akko:おそらく情緒ある世界観が好きな人、派手なエンタメ時代劇が好きな人、両方のファンを満足させようとテイストを変えたのでしょうか。

三浦:うーん。もちろん「2」も良かったんですよ。でも出来れば「1」のテイストがそのまま欲しかったですねえ。

和田:そうですね。「2」はバイオレンスが意外なほどてんこ盛りで、違う雰囲気でした。

akko:タランティーノの『ヘイトフル・エイト』を彷彿とさせるような仕掛もありました。

三浦:椎名桔平が演じる敵役の井坂が余りにも悪過ぎて、ちょっとステレオタイプに見えるところがありました。逆にあそこまで悪すぎると、何か観ていて笑うしかないというというか。昔の時代劇にはこういういかにも悪人って出てきたなあとか思い出しながら観ていました。

akko:私、菅野美穂さん演じる「おもん」が良かったんですよ。

和田:ただ待つだけの身も辛い気がするけど。

akko:いいんです、それでも。梅安さんなしの人生に比べれば、おもんにとっては幸せだと思います。

三浦:それにしても豊川悦司さん、本当にかっこよかったですね。着物も似合っていたし、鍼医者としての手つき、日常の何気ない所作、何もかも美しい。お酒を飲み干して盃を振るだけの場面でも、さまになっていて。ほれぼれしながら観ていました。

akko:お酒と言えば、彦さんと2人で飲むシーンとか、梅安さんの自宅の食事とか、いろいろおいしそうなシーンがありました。

和田:池波正太郎が愛した江戸料理を再現するために、日本料理店「分とく山」の総料理長・野崎洋光さんが料理監修を務めたそうです。

akko:味噌汁を作るシーン、映画では鍋から立ち上る湯気しか映らないんですよ。でも野崎さんはそれを承知の上で、わざわざ京都の伏流水まで用意して、本当に味噌汁を作ったそうですよ。料理人としての心意気を感じますよね。

三浦:「1」の湯豆腐とかおいしそうでしたよねえ。

和田:僕は最初に出てくる茶漬けが食べたい。

akko:2作目では2人がなぜ仕掛人になったのか、そのエピソードが明かされましたね。いわば闇に落ちたわけですが、人としての矜持は保っている。その上で、自分たちの暗い運命を背負っていく覚悟のようなものを感じました。

和田:2作目の井坂の一派は完全なる悪でしたが、他の登場人物は悪も善も合わせ持っていて割り切れない。それが深みにつながっていましたよね。

三浦:現時点ですが、この映画、今年のベスト1です。

akko:私もです。「1」は今年のベスト映画になるのかなという感じです。

和田:エンドロールの後におまけ映像がありますが、あれは「鬼平犯科帳」へのバトンタッチらしいですよ。こちらも楽しみですね。

T・ジョイ長岡 2023年5月オススメ映画

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© 2022「銀河鉄道の父」製作委員会

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© 2022 FOCUS FEATURES LLC.

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