映論言いたい放題 Film 208 ラストナイト・イン・ソーホー

池田：この映画、そもそもタイトルのソーホーが分からなくて、調べてしまいました。

akko：私は最初ニューヨークのソーホーと勘違いしていました。ロンドンの歓楽街で、かつては流行の発信地であると同時にいわゆる「いかがわしい場所」でもあったらしいですね。

田中：主人公のエロイーズがファッションデザイナーを目指しているじゃないですか。布が買えないから新聞紙でドレスを試しに作るシーンが冒頭にありましたが、あれは実際にデザイナーの卵たちがやっているんですよ。その辺りのリアルさとか良かったですね。

和田：劇中の音楽が良かった。60年代の曲がたっぷり使われているんですが、個人的に好きなものばかり。エロイーズがロンドンに引っ越す時に持って行くレコードも実際に劇中で使われたもので、こういうこだわりは嬉しいですね。

akko：この映画は良い意味で予告編詐欺でした。想像していた内容とまったく違ってまさかの展開が待っていてビックリ。

田中：そうですね。『君の名は。』みたいに60年代のロンドンに行って入れ替わりを体験するのかと思いきや、あの展開。裏切られましたね。

池田：サンディが歌手として夢を掴みかけて、現実のエロイーズもうまく行き始めて、このままバラ色かと思っていたのに……。

和田：エドガー・ライト監督はイギリス人だけあって、往年のイギリスの名優が出ているのも見どころですね。フェエリー二の『悪魔の首飾り』に出ていたテレンス・スタンプや、元ボンドガールのダイアナ・リグなどなど。

akko：ダイアナ・リグ、やたら美人のおばあちゃまだと思ったのですが、そんな経歴の人だったとは。ところで、私は終盤まで真相が分からなかったんですが、皆さんはいかがでしたか。

田中：僕は映画を観るときにできる限り情報を拾って分析しながら観るんですよ。この映画も細部まで気を配って観ていると、結構気づける部分がありました。

池田：自分もわりとそうですね。怪しく見えない人のほうに注意を向けるとか。それにしてもこの映画は、女性が観ると「怖い」でしょうね。

和田：たしかに。女性が男たちに食い物にされて落ちていく話ですからね。

池田：その象徴として「顔のない男たち」が出てくるじゃないですか。まるでフランシス・ベーコンの絵みたいでしたよね。

akko：あれは表情が分かるより怖くて不気味でした。

池田：ある意味、無垢な若い女性たちに対する警鐘映画ですよ。

akko：実家を離れて都会に行く前に、この作品を観たほうがいいかも。

田中：そうですね。いろいろとメッセージ性が強かったし。

和田：この映画は他の作品にオマージュを捧げているような部分がいくつもありました。特に監督の大先輩にあたるヒッチコックの『サイコ』や『白い恐怖』などの影響を感じます。その辺が好きな方はぜひ。

Ｔ・ジョイ長岡 2021年12月オススメ映画