映論言いたい放題 Film 225 銀河鉄道の父

映論言いたい放題

『銀河鉄道の父』
2023年5月5日公開
■監督:成島出
■原作:門井慶喜『銀河鉄道の父』(第158回直木賞受賞作)
■出演:役所広司(父・宮沢政次郎)/菅田将暉(宮沢賢治)/森七菜(妹・トシ)/豊田裕大(弟・清六)/坂井真紀(母・イチ)/田中泯(祖父・喜助)
■あらすじ:質屋を営む裕福な家の長男として生まれた宮沢賢治。跡取り息子として大事に育てられたが、家業を「弱い者いじめ」として拒み、将来の進路が定まらず親を困らせる。そんな賢治を温かく慕い続けたのは妹・トシだった。だがトシが不治の病に倒れたことがきっかけで、賢治の人生は大きく変わる。
© 2022「銀河鉄道の父」製作委員会
合評参加者:
 大竹文惠(T・ジョイ長岡 映写担当)
 akko(「ムーヴィーズゴー!ゴー!」「週刊シネマガイド」出演)
 和田竜哉(「ムーヴィーズゴー!ゴー!」ディレクター、「週刊シネマガイド」出演)

※「ムーヴィーズゴー!ゴー!」FMながおか(80.7MHz)毎週木曜18時30分より インターネットラジオでも聴けます!
※「週刊シネマガイド」ケーブルテレビNCT 11ch、「ちょりっぷナビゲーション」内で放送

和田:この映画、いろいろと長岡と縁のある人たちが関わっている作品なんですよね。

akko:成島出監督と役所広司さん主演のコンビは『聯合艦隊司令長官 山本五十六 -太平洋戦争70年目の真実-』だし、父親が田中泯さんで息子が役所さんという設定は『峠 最後のサムライ』と同じです。

大竹:そうなんですね。役所さんというと大手住宅メーカーのCMのイメージが強くて。大御所で当然名前は知っていますが、実はこれが役所さん主演映画初鑑賞でした。演技が本当に素晴らしくて、さすがだなあと思いました。

和田:余談ですが『聯合艦隊司令長官〜』はおすすめですよ。今まで多くの人が五十六を演じてきましたが、役所版はひと味違う。長岡人なら必見です。

akko:私この映画を観るまでは、賢治の家族って結核で夭折した妹のトシのことくらいしか知らなくて。さらに賢治自身がこんな人だったとはビックリでした。

大竹:物静かな詩人のイメージが強かったのですが、こんな破天荒で突飛な人だったとは!

akko:それにしても、お父さんがあそこまで賢治を愛していたとはビックリでした。今でこそ「イクメン」とか言われていますけれど、あの時代に男性があそこまで子どもに尽くすのは相当珍しかったでしょうね。

和田:賢治が子どもの頃に病気で入院したとき、自ら病院に泊まり込んで、医者そっちのけで看病していましたよね。それで自分が腸カタルになって、その後も苦しめられても「賢治からうつされたのだから」と何だか嬉しそうで…。

akko:あれだけ可愛がっていた賢治に「跡は継がねぇ」と言われたら、それはショックだったと思います。それだけでも衝撃なのに、浄土真宗を信仰する父親と対立するかのように別の宗派に夢中になって…。

和田:賢治が宗教に興味を持つきっかけになったのが、新潟県出身の僧侶・島地大等なんですよ。彼が出した本を読んで感銘を受け、後に法華信仰に夢中になるんですが、なんとその本を薦めたのは政次郎だったんですよ。後のことまでは想像できなかったでしょう。

akko:その後、妹トシが結核に倒れたことで、賢治の眠っていた文才が開花していきます。結果論ですが、妹の死が賢治を文学者として成長させました。

和田:賢治が父親に反発したのも、貧しい人たちに対する思いやりからですよね。太宰治とか有島武郎とか、特権階級に生まれた自分の立場を否定した作家は少なくないですね。

大竹:文豪ってお金持ちが多いんでしょうか。

akko:石川啄木のような人もいますが、基本的に昔は裕福じゃないと文学とかやっている余裕はなかったでしょうね。

大竹:やはりそうでしたか。賢治は立派ですが、あの生き方は実家が太くないと無理だろうなとは感じました。

akko:賢治のすごいところは、文学をやりながら、現実的な部分でも人の役に立っていたところ。地元農民のために講習会を開いて土壌改良したり、自らも畑に出たりしていましたよね。

大竹:あの辺りはよかったですよね。若い頃は夢や理想が遠いところにあった賢治ですが、最後は自身の身の丈にあった生き方をして、ちゃんと知識を社会に還元できた。ずっと感じていたもどかしさを解消できたように思います。

和田:トシと同じ病に賢治も倒れてしまいますが、あのシーンは反則ですよ。父・政次郎が「雨ニモ負ケズ」を朗読する姿に涙腺が崩壊しました。

大竹:私はやはり妹とのやり取りが心に残りました。結局、賢治の代表作の『銀河鉄道の夜』のジョバンニとカムパネルラは、あの二人のことだったんですよね。

和田:賢治はつくづく家族に恵まれましたよね。弟が家に入ってくれたからこそ安心できた部分も大きいし、賢治の死後、政次郎の献身があって彼は世に出たわけで。

大竹:それにしてもラストシーンは良かったですね。

akko:ですよね。『銀河鉄道の父』というタイトルの意味がじんわりと効いてきました。

和田:今年は賢治の没後90年。あらためて彼を知る良いきっかけになったのではないでしょうか。大地の芸術祭では賢治の『注文の多い料理店』を具現化した作品も通年公開されていますので、そちらも合わせてご覧ください。

十日町市松代のまつだい「農舞台」で通年公開されている作品『西洋料理店 山猫軒』

T・ジョイ長岡 2023年6月オススメ映画

『怪物』
2023年6月2日公開

よくある子ども同士のケンカに思えた出来事だった。しかし当事者の主張はそれぞれ食い違い、次第に社会やメディアを巻き込んだ大事へとなっていく。そして、ある朝、子どもたちが忽然と姿を消した。


© 2023「怪物」製作委員会

『大名倒産』
2023年6月23日公開

越後・丹生山藩の鮭役人の子・間垣小四郎。ある日突然、殿のご落胤と言うことが判明し、いきなり跡取りに抜擢される。しかしそれは25万両(およそ100億円)の不良債権処理の始まりであった。


© 2023映画「大名倒産」製作委員会

リバティデザインスタジオ

新潟県長岡市のデザイン事務所。グラフィックデザイン全般、取材・撮影・ライティング・編集などの業務を展開。

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