長岡出身・和月伸宏氏代表作「25周年記念 るろうに剣心展」 at 新潟市美術館

アート・展覧会

1994年から99年まで「週刊少年ジャンプ」に連載された大ヒット漫画『るろうに剣心─明治剣客浪漫譚─』。作者は長岡市出身の和月伸宏氏だ。シリーズ累計発行部数は7200万部を超え、日本のみならず海外からも愛されているこの作品が、誕生してから25周年を迎えたことを記念して、大規模作品展「るろうに剣心展」として新潟で開催されている。新潟会場は和月先生の故郷ということもあり、ここだけの特別展示もあるのだとか。期待に胸をふくらませ、いざ会場へ!

なおフリーペーパー月刊マイスキップでは2013年に和月伸宏さんのインタビュー記事を掲載したのだが、今回集英社さんのご厚意によりそれを再掲載できることとなった。
そちらも合わせてお読みいただければ幸いだ。

→長岡市出身の大ヒット漫画家 “るろうに剣心” 和月伸宏さん

入り口では大きな剣心がお出迎え

るろうに剣心とは

『るろうに剣心』の舞台は明治初期の日本、主人公は流浪人(るろうに)の緋村剣心だ。じつは彼は幕末に「人斬り抜刀斎」として恐れられた伝説の剣客であった。だが明治維新の後には「不殺(ころさず)の誓い」を立て、峰と刃を逆に打った逆刃刀(さかばとう)を持ち諸国をさすらっていた。そんな剣心が旅の道中で、神谷薫、明神弥彦、相楽左之助らと出会い、仲間たちと共に新しい時代を生きて行く…という物語だ。

緋村剣心を筆頭に主要キャラの説明がずらり(※カラー原画は前期展示のものです)

作品は和月氏によるオリジナルストーリーではあるものの、新撰組の斎藤一など幕末から明治にかけて活躍した人物も登場する。会場に入ると主要キャラが解説付きでずらりとお出迎えしてくれる。今回の展覧会は「仲間とは」「正義とは」「強さとは」など5つのテーマが設けられ、それぞれの内容に添った原画が展示されている。

新潟会場限定の緋村剣心に会える!

展示数は200点以上。本展を企画した集英社の上野彩子さんは、展示作品を「和月先生入魂の原画」と表現した。「コミックでは分からないホワイト部分、線や欄外の描き込みなど、アナログ原画ならでの見どころがたっぷりあります。県民の皆さまへのメッセージが添えられた新潟会場限定の描きおろし色紙など、この会場だけの特別展示もありますのでぜひお楽しみください」と話した。

新潟会場限定の描きおろし色紙にはどんなメッセージが書いてあるのか、ぜひ会場でご確認を!

作者の息吹まで伝わるかのような展示

確かに肉筆原稿ならではの見どころがたっぷりだ。たとえば「吹きつけ」と呼ばれるペン先の裏にインクをつけて息で飛ばす表現などは、紙の上でインクが盛り上がっているのがはっきりと分かり、まさに作り手の息吹が伝わってくるような仕上がりを感じることができるのだ。

ホワイトインクの盛り上がりと躍動感ある線に感動した1枚。第九十幕「鮮血の終焉」

よく展覧会では「本企画展の目玉展示はこれ」という作品があるが、今回はすべてが目玉と言っても過言ではないと感じた。
1枚ごとにドラマがあり、そこに描かれたストーリーに思いを馳せつつセリフに感動し、さらに和月氏の超絶技巧にうならされるといった感じなのだ。
どれが「目玉」なのかは、鑑賞している人のお気に入りエピソードはどれか、推しキャラが誰か、などで決まるのではないだろうか。

まるで漫画の世界とリンクしたかのような展示

主催者のひとつであるTeNYテレビ新潟の土田雅之さんは「この画力のすごさ、そしてこれを週刊連載でやっていたというのは驚異的なこと」と話し「登場人物に新潟県にちなんだ名前の人物がたくさんいるのはうれしい」と顔をほころばせた。

展示の背景も凝っている。画面左上のキャラが四乃森蒼紫

ちなみに四乃森蒼紫(しのもりあおし)と聞いて長岡市民が思い浮かべるのは「蒼柴の杜(蒼柴神社)」だ。だがなぜか「柴」ではなく「紫」という字が使われている。「じつはこれ、和月先生の出身校である長岡高校応援歌の『蒼紫の森の〜♪』という歌詞に基づいているそうで、だから『紫』なんですよ」と、土田さんから思わぬ裏話を披露していただいた。

組み紐が結ぶ作品と物語の縁

展覧会の注目ポイントのひとつが所々に添えられた和月氏のコメントだ。よく映像作品の特典で監督や出演者のコメンタリーを副音声で聞けるサービスがあるが、まさにそのような仕掛け。しかも原画を鑑賞しながらじっくり味わえるというファンにとってはたまらない展示となっている。

所々、和月氏による解説が添えられている

会場の壁には一部、組み紐があしらわれているところがある。これは和の演出かと思いきや、新潟市美術館学芸員の荒井直美さん曰く「一人一人のキャラクターの想いがつながり、つむがれていくというコンセプトになっており、これは巡回展全会場共通の飾り付け」だそうだ。

組み紐があしらわれた会場の壁

女心を掴む、たくみな表現とセリフ

『るろうに剣心』は「週刊少年ジャンプ」の連載ながら、ファンレターの「九割方が女性から」と和月氏が書いているほど、女性ファンの多い作品だ。確かに艶やかな髪の毛の表現、女性たちの愛らしい表情などは、少女漫画の繊細さにも通ずるものがある。

荒井さんは「この美しい絵を見ていると女性ファンが多いのも納得」と話す。さらに和月氏は女心が分かっているとも語り、実際に読んで泣いてしまったという名シーンがちょうど展示に選ばれていたと解説してくれた。それが、第六十幕の「恵の気持ち・薫の気持ち」だ。

第六十幕「恵の気持ち、薫の気持ち」について熱く語る荒井直美さん(左)

剣心が去ってしまい泣いてばかりいる薫に恵がハッパをかけるのだ。これは剣心という一人の男性を巡り、彼を愛する二人の女性が喪失感を抱えながら言葉でバトルをするという『るろ剣』のもうひとつの戦いのシーンでもある。コミックスでもグッと来る場面だが、原画で見るとその感動もひとしおだ。

原画ならではの発見

さらに原画で見たことで新たに発見した1枚があると荒井さんが紹介してくれたのがこちらだ。「宿敵のひとり、志々雄とのバトルを描いたこの1枚です。剣心が奥義を繰り出してやっつけるのですが、「アアアアアアアァ」というセリフがホワイトで消されているのが原画で分かったんです」

右のものがセリフが消されたことが分かる原画

原画ではそれまで刀のぶつかり合う音が響き合い、最後にとどめを刺された志々雄が舞い上がるコマは一切の文字がなく無音で表現されていた。しかし当初は志々雄が叫びを上げながら舞い上がるという演出になっていたのだ。
「おそらく最後の最後で先生は叫び声を消したのだと思います。そのことによってあの映画のワンシーンのような演出がされていたんですよ。これに気づいたときには思わず息を呑みました」
荒井さんは、おそらく見た人それぞれに原画を見たことで分かるサプライズがあるはずと話し「ぜひ会場でそれを見つけてほしい」と語った。

リアル逆刃刀と山本五十六

剣心を象徴するアイテムといえば逆刃刀だが、会場にはなんと本物の逆刃刀が展示されているのだ。これは愛知県犬山市の博物館明治村が、岐阜県関市の無鑑査刀匠・尾川兼國(おがわかねくに)氏に依頼して作られたもので、本企画展のために特別に貸し出してもらったという。茎(なかご)の部分には「我を斬り刃鍛えて〜」という原作に登場する文言も刻まれているので、ぜひ見てほしい。

峰と刃が逆に付いた逆刃刀を見事に再現

また新潟会場のみの展示として、長岡高校出身の和月氏が描いた、母校の大先輩である連合艦隊司令長官・山本五十六元帥の若き日のイラストも展示されている。これは同校同窓会のために和月氏が手掛けたものだ。ほかに「駆け出しの自分を支えてくれた大事な戦友」である画材や、和月氏の落款など、貴重な品が展示されている。

長岡高校の大先輩・山本五十六を和月氏が描いた貴重な1枚

黒べこでお買い物した後は、ぜひ聖地巡礼へ

鑑賞後はぜひ美術館内にあるミュージアムショップ「ルルル」へ立ち寄ってみてほしい。ここには企画展開催中限定で、るろ剣グッズを扱うショップ「黒べこ」がオープンしているのだ。この名前は作中に出てくる牛鍋屋「赤べこ」「白べこ」にちなんだものだ。

「黒べこ」の様子。多くのファンがグッズを求めて集まっていた

るろうに剣心展新潟会場ではただいま来場記念として、1回の入場につき1人1枚「るろうに剣心」おみくじを配布している。全10キャラクターの家紋入りデザインで、どれが出るかは会場で手に入れてからのお楽しみだ。

「るろうに剣心」おみくじがもらえる

また新潟会場限定のイベントとして「聖地巡礼るろ剣キャラめぐり」も開催されている。るろ剣のキャラは「三条燕」「巻町操」など、県民なら「あ、あそこの地名だ!」と分かる名前がずらり。それにかけて地名ゆかりのキャラクターのポスターがJRの各駅に貼られているのだ。そこに描いてあるクイズに会場で解答すると「るろ剣新潟限定ステッカー」が抽選で当たるという仕掛けだ。
詳しくは美術館内にある告知ポスター、もしくは以下のサイトをチェックしてみてほしい。

→聖地巡礼 るろ剣キャラめぐり

るろ剣キャラめぐり

All Images © 和月伸宏/集英社

新潟市美術館
新潟市中央区西大畑町5191-9 TEL:025-223-1622
25周年記念 るろうに剣心展
2021年6月19日(土)〜8月29日(日)、9:30〜18:00、月曜休館(8/9・10は開館)
一般1,500円、高校・大学生1,000円、中学生以下無料
※会期中一部展示替えあり(前期6月19日~7月18日、後期7月20日~8月29日)

リバティデザインスタジオ

新潟県長岡市のデザイン事務所。グラフィックデザイン全般、取材・撮影・ライティング・編集などの業務を展開。

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