映論言いたい放題 Film 222 シャイロックの子供たち
『シャイロックの子供たち』
2023年2月17日公開
■監督:本木克英
■原作:池井戸潤「シャイロックの子供たち」(文春文庫刊)
■出演:阿部サダヲ(課長代理・西木雅博)/柳葉敏郎(支店長・九条馨)/杉本哲太(副支店長・古川一夫)/上戸彩(西木の部下・北川愛理)/佐々木蔵之介(検査部次長・黒田道春)/橋爪功(顧客・石本浩一)/柄本明(取引先・沢崎肇)
■あらすじ:東京第一銀行の小さな支店で起きた現金紛失事件。お客様係の西木(阿部サダヲ)は部下の北川(上戸彩)らと共に真相を探る。調査して見えてきたのは、メガバンクに潜む巨大な闇だった。
© 2023映画「シャイロックの子供たち」製作委員会
合評参加者:
岩井康友(こうすけ)(T・ジョイ長岡 映写担当)
akko(「ムーヴィーズゴー!ゴー!」「週刊シネマガイド」出演)
和田竜哉(「ムーヴィーズゴー!ゴー!」ディレクター、「週刊シネマガイド」出演)
※「ムーヴィーズゴー!ゴー!」FMながおか(80.7MHz)毎週木曜18時30分より インターネットラジオでも聴けます!
※「週刊シネマガイド」ケーブルテレビNCT 11ch、「ちょりっぷナビゲーション」内で放送
akko:タイトルの「シャイロック」は、シェイクスピアの『ヴェニスの商人』で出てくるイヤな金貸しのことですよね。
和田:強欲の象徴みたいなキャラクターですよね。映画の冒頭が『ヴェニスの商人』の観劇から始まるので、その辺りの知識がなくてもタイトルに込められた意味が分かるようになっていましたね。
岩井:ほとんど前情報がない状態で観ました。銀行が舞台でお金が絡んでくるので、難しそうな感じがして頭を整理しながら鑑賞していたんですが、なかなか面白かったですね。
akko:池井戸潤さんの作品はたくさん映像化されていますが、ほかの作品はご覧になったことはありますか。
岩井:いえ、今作が初めてでした。でも『半沢直樹』は有名なので、予告編で阿部サダヲさんが言っていた「倍返し」の台詞はさすがに知っていました。
和田:池井戸さんの作品は『半沢直樹』にしても『空飛ぶタイヤ』にしても、勧善懲悪の爽快感がありましたが、今作はそれらとは少し違った印象を受けます。やはり登場人物がみな、黒い部分を持っているからでしょうね。
岩井:そうですね。何か勝利を喜ぶというよりは事なきを得てホッとしたというか。
akko:池井戸さんは元銀行員だけあって、リアルで内幕を描いている感がすごかったですよね。
岩井:ノルマ達成で追い込みをかけていく杉本哲太さん演じていたパワハラ上司の古川とか、すごかったですよね。こういう上司って本当にいるのかなと思わされました。
akko:最初は古川のこと「嫌いだなあ」と思いながら観ていたんですが、途中からあまりにキャラ立ちしすぎて、何かコント劇を観ているような気分になって笑いそうになりました。でも館内で誰も笑っていないので必死にこらえましたが。
岩井:その感覚分かります。あまりにイヤだと感じると、そうでも思わないとやってらない気持ちになりますよね。
和田:犯罪がバレるきっかけになる小道具の帯封の使い方が実に見事でしたね。あの封を破るか否か、たったそれだけのことが、シャイロック(悪人)に墜ちるかどうかの分かれ目で。
akko:まさに札束をたばねているもので、人の欲望を分かりやすい形でどーんと出してきましたよね。
岩井:僕は不動産物件の売買の書類のやり取りが心に残りました。中年の男性たちが集まって、書類にハンコを押していく。ただそれだけの場面であそこまでの緊張感を感じるとは…
和田:巧みな演出でしたね。
akko:映画版は小説、ドラマとも異なるオリジナルストーリーだそうです。西木は原作では途中で消えてしまうそうですよ。映画版ではあの西木の軽さが一服の清涼剤でしたよね。
岩井:確かにそうですね。でもあんなドロドロした空気感で、あれだけ淡々と冷静にいられるっていうのは、ちょっと怖い気もするキャラでしたね。
和田:映画のラストで、西木はちょっと気になる形で登場しますよね。あれは一体何を表現しているのか。いろいろ気になる1本です。
T・ジョイ長岡 2023年3月オススメ映画
『フェイブルマンズ』
2023年3月3日公開
初めて映画館を訪れて以来、映画に夢中になったサミー・フェイブルマン少年は8ミリカメラを手に、妹や友人たちが出演する映画を制作する。そんな彼を母は芸術家と応援するが、科学者の父は理解をしてくれない。巨匠スピルバーグの自伝的作品。
© 2022 Universal Pictures. ALL RIGHTS RESERVED.
『生きる -LIVING-』
2023年3月31日公開
黒澤明の名作『生きる』を、1953年のロンドンを舞台にイギリスでリメイク。脚本を手掛けたのはノーベル賞作家のカズオ・イシグロ。仕事一筋に生きてきた公務員ウィリアムズは病気で自身の余命がわずかなことを知る。彼は充実した人生を求めて、新しい一歩を踏み出す。
© Number 9 Films Living Limited.