映論言いたい放題 Film 199 「スパイの妻 劇場版」

スパイの妻 劇場版
映論言いたい放題

映画『スパイの妻 劇場版』
2020年10月16日 公開
2021年3月3日 Blu-ray&DVDリリース
■監督:黒沢清
■出演:蒼井優/高橋一生/東出昌大/板東龍汰/恒松祐里/みのすけ/玄理/笹野高史
■あらすじ:2020年6月にNHK BS8Kで放送された同名ドラマをスクリーンサイズや色調を新たにし、劇場版として公開。1940年の満州で、怖ろしい国家機密を知ってしまった貿易商の福原優作は、正義を貫くため告発を決意する。国家を敵に回した夫を信じて妻・聡子は「スパイの妻」として生きる覚悟を決めるのだった。第77回ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門で銀獅子賞(最優秀監督賞)を受賞した。
© 2020NHK,NEP,Incline,C&I
合評参加者:
 池田直樹(T・ジョイ長岡 映写担当)
 下田直道(T・ジョイ長岡 アシスタントマネージャー)
 akko(「ムーヴィーズゴー!ゴー!」「月刊シネマガイド」出演)
 和田竜哉(「ムーヴィーズゴー!ゴー!」ディレクター、「月刊シネマガイド」出演)

※「ムーヴィーズゴー!ゴー!」FMながおか(80.7MHz)毎週木曜18時30分より インターネットラジオでも聴けます!
※「月刊シネマガイド」ケーブルテレビNCT 11chでリピート放送

下田:この映画、ヴェネチアで銀獅子賞受賞した作品ということで、ずっと観たいなあと思っていたんですよ。

池田:受賞作品にしてはお客さんの入りはそれほどでしたが……。

下田:公開が『鬼滅の刃』と重なりましたからね。

akko:実際にご覧になっていかがでしたか。

下田:もともと第二次世界大戦前後の頃を描いた作品が好きなんですが、まさか「スパイ」が内部告発者だとは思わなかったので複雑な気持ちになりました。

和田:主人公の福原が見た国家機密というのは、おそらく「731部隊」のことを想定しているんでしょうね。

池田:そうでしょうね。その国家機密を一般人である貿易商がそんな簡単に見てしまうことができたのかとか、ずっともやもやと気になってしまいました。

akko:なるほど確かに。でもそれはひとまず置いといて、この映画、伏線の張り方がすごかったですよね。すべてがラストに向けて見事に回収されていって。あの辺りはどうですか。

下田:あの展開はミステリー小説を読んでいるみたいでしたよね。

池田:もしこれが自分だったら「家庭を守るために何も見なかったことにする」と思うんですよ。だからどうしても主人公に感情移入できなかったんですよね。

和田:たしかに夫の行動の動機付けが少し弱い気はしますね。やはりこの映画は「妻」が主人公なんですよね。蒼井優さんの熱演が光りました。

akko:あのクラシカルな美貌はよかったですね。身につけているもの、暮らしている屋敷、当時の街並み、そういったもの全てをひっくるめて、この映画の作り込みが素晴らしかった。グッと来ました。

和田:あの街並みのセットは大河ドラマ『いだてん』のものを使ったとか。そして蒼井さんは小津安二郎の『風の中の牝雞』を観て、田中絹代が演じた主人公を参考に役作りをしたそうですよ。

下田:旦那がスパイになってでも正義を貫き通そうとしたとき、2人の愛の深さ、とりわけ妻の愛の深さが分かりますよね。

和田:そうですね。前半と後半でガラリと雰囲気が変わって、慎ましい大和撫子から炎のような女へと変貌を遂げていく。あれがこの映画の肝ですよね。

池田:そうか。「妻目線」で映画を観ると、また違った見方ができたのかもしれないですね。

akko:終盤はまさかの展開が待っていますよね。

下田:はっきりとは描かれていませんが、ハッピーエンドだったように感じました。

和田:ですね。あの2人には幸せになってもらいたいものです。(了)

T・ジョイ長岡 2021年3月オススメ映画

トムとジェリー

映画『トムとジェリー』
2021年3月19日公開
1940年にアメリカで誕生した大人気アニメ「トムとジェリー」がついに映画化。お調子ものでドジなネコ・トムと、可愛いけどずる賢いネズミ・ジェリーがドタバタを繰り広げるという設定はそのままに、今回は実写の世界で大暴れ!
ニューヨークの一流ホテルで開かれる、セレブカップルのウェディングパーティーを台無しにした2匹。そのせいでホテルを首になった女性スタッフ(クロエ・グレース・モレッツ)を助けるために立ち上がります。
©2020 Warner Bros. All Rights Reserved.

騙し絵の牙

映画『騙し絵の牙』
2021年3月26日公開
作家・塩田武士が、主人公に俳優の大泉洋を想定して書いたベストセラー小説「騙し絵の牙」を映画化。もちろん主演は大泉洋!
出版業界を舞台に、廃刊の危機に立たされた雑誌編集長の起死回生をかけたバトルを描く。裏切りや陰謀がうずまく中、果たして無事に難局を乗り切れるのか。松岡茉優、中村倫也、リリー・フランキー、塚本晋也、佐藤浩市など、豪華な出演陣の群像劇というのも見どころのひとつ。
©2020「騙し絵の牙」製作委員会

リバティデザインスタジオ

新潟県長岡市のデザイン事務所。グラフィックデザイン全般、取材・撮影・ライティング・編集などの業務を展開。

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