映論言いたい放題 Film 231 ザ・クリエイター/創造者
『ザ・クリエイター/創造者』
2023年10月20日公開
■監督・脚本:ギャレス・エドワーズ
■出演:ジョン・デヴィッド・ワシントン(ジョシュア)/マデリン・ユナ・ヴォイルズ(アルフィー)/渡辺謙(ハルン)/ジェンマ・チェン(マヤ)
■あらすじ:遠くない未来。人類を守るために作られたはずのAIが暴走し、ロサンゼルスで核爆発を起こした。同じ悲劇を二度と繰り返さないため、アメリカはAIの製造を禁止。だがニューアジアはAIとの共存を選び、両者の戦いは10年以上続いていた。元特殊部隊のジョシュアは、兵器を創造した人物の潜伏先に暗殺に向かうが、そこにいたのはヒューマノイド型ロボットの少女アルフィーだった。
© 2023 20th Century Studios
合評参加者:
三浦佳子(T・ジョイ長岡 映写担当)
岩井康友(こうすけ)(T・ジョイ長岡 映写担当)
akko(「ムーヴィーズゴー!ゴー!」「週刊シネマガイド」出演)
和田竜哉(「ムーヴィーズゴー!ゴー!」ディレクター、「週刊シネマガイド」出演)
※「ムーヴィーズゴー!ゴー!」FMながおか(80.7MHz)毎週木曜18時30分より インターネットラジオでも聴けます!
※「週刊シネマガイド」ケーブルテレビNCT 11ch、「ちょりっぷナビゲーション」内で放送
岩井:予告編を見たときから結構期待していた作品だったんですよ。SFによくある設定ではありますが「人類対AI」という世界観は割と好きで。でも実際に映画を観てみたら、オチに関わるので詳細は語れませんが「そういうラストか…」という感じで。答えの提示がほしかったというか、もう少し先まで見せてほしかったというか…。
akko:玉虫色の終わり方ではありましたね。
和田:僕は逆に白黒付けない終わり方がよかったんですよね。アメリカはAIを撲滅させるのが最終目的ですが、ニューアジアは共存の道を選んだだけで、アメリカに対してどうこうしようという意思はない。とすれば必然的に防御できればそれで良いのかなと。
akko:なるほど。それにしても主人公ジョシュアが「創造者」の暗殺に向かったら、まさかそこに可愛らしい子どもがいるとは。相手はヒューマノイドとはいえ、心苦しい状況ですよね。
三浦:あのヒューマノイドのアルフィーは可愛かったですよね。最初髪型のせいか、男の子かなと思っちゃったんですけれど。まるで超能力者のようで、ちょっと大友克洋さんの『AKIRA』を思い出しましたね。
和田:監督は絶対に日本が好きですよ。アルフィーが無邪気にテレビを観ているシーンがありましたが、そこに写っていたのが宇津井健さん演じるスーパー・ジャイアンツだったりとか、本当に小技が効いていました。
akko:『ブレードランナー』っぽくもありましたよね。
和田:そうそう、お約束の変な日本語も出てくるし。サイバーパンクといえば日本という感覚が、今のハリウッドにも残っているのが嬉しかったですね。
akko:AIという究極のテクノロジーを描きつつ、死生観とか宗教観も描かれていて、この映画を観てどう思うか、どう判断するかで自身の価値観が問われるような内容でしたよね。
岩井:ああ、そうですよね。僕は観ながら『攻殻機動隊』を思い出していました。あの作品も思想的な要素が入ってくるSFですよね。人間とAIの違いは何なのかっていうことをAI側が語り始めたり。
三浦:最初はAIを「ただのプログラムだ」と言っていた人が、AIの恋人が出来たことで価値観が変わっていきましたよね。ジョシュアもアルフィーに対してどんどん愛情が湧いてきたりして、私は関わっていく人たちの変化が面白いなあと思いながら観ていました。
和田:多分に宗教的でしたよね。人間とAIの関係性を描きつつ、唯一神のキリスト教的価値観と八百万の神を受け入れる日本的な価値観を対比的に描いて、アメリカを傲慢でイヤなやつにしてしまった。だからなのか全米ではそれほどヒットしませんでした。
岩井:アメリカは歴史的にも強者というか、侵略する側ですよね。でもこの映画は侵略される側の目線を描いていて、ちょっと『アバター』っぽいとも感じました。
akko:私はラスト近くに出て来た山岳地帯の寺院がチベット仏教の象徴のように思えて。そうやって考えると世界情勢の構図が浮きがあるというか。
和田:チベット僧の格好をしたAIが出てきたりとかね。
岩井:ベトナム戦争を想起させるようなシーンもあって、いろいろ風刺に富んでいましたよねえ。
akko:輪廻転生とか死後の世界とか、ハリウッド映画でここまで東洋的な価値観に出会えるとは思いませんでした。
三浦:ネタバレなので曖昧にしておきますが、ラストはちょっと泣きそうになりました。
岩井:日本人のメンタリティにぴったりの映画でしたよね。日本人は子どもの頃からみんなドラえもんに親しんでいるじゃないですか。でもドラえもんだって、本当はプログラミングされたロボットなんですよ。
akko:あ、確かに(笑)物も長く使えばいずれ魂が宿るって信じている民族ですからね。この映画の価値観はしっくり来るんでしょうね。
和田:思想的な描き方をしつつも、禍々しい最終兵器や巨大な装甲車を登場させてSFファンを喜ばせ、水田が広がる未開な村に老人のAIが暮らしているというカオスな世界観でサイバーパンク好きの心をくすぐるという、バランスの取れた素晴らしい作品でした。日本人は必見ですよ!
T・ジョイ長岡 2023年12月オススメ映画
『窓ぎわのトットちゃん』
2023年12月8日公開
落ち着きのない子ども「トットちゃん」は小学校を退学になってしまった。彼女が新しく通うことになったのはトモエ学園。校長先生はちょっと変わったトットちゃんを優しく受け入れ「君はほんとうはいい子なんだよ」と認めてくれた。黒柳徹子さんの自伝的作品のアニメ映画化。
© 黒柳徹子/2023映画「窓ぎわのトットちゃん」製作委員会
『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』
2023年12月8日公開
幼い頃から、いつか母親と一緒に美味しいチョコレートの店を作ろうと、夢見ていたウィリー・ウォンカ。彼は数々の困難を乗り越えて「世界一のチョコレート屋」を目指す。果たしてウォンカはチョコレート工場を作ることができるのか。
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