映論言いたい放題 Film 232 PERFECT DAYS

映論言いたい放題

『PERFECT DAYS』
2023年12月22日公開
■監督:ヴィム・ヴェンダース
■出演:役所広司(平山)/中野有紗(ニコ)/柄本時生(タカシ)/アオイヤマダ(アヤ)/麻生祐未(ケイコ)/石川さゆり(ママ)/三浦友和(友山)
■あらすじ:東京渋谷の公衆トイレの清掃員として働いている平山。押上の古いアパートでひとり暮らしの彼は、日々同じことを規則正しく繰り返して生きていた。彼の楽しみは木漏れ日を見ること。仕事の合間に、空を見上げるのが憩いのひとときだった。
© 2023 20th Century Studios
合評参加者:
 野上純嗣(映像作家)
 akko(「ムーヴィーズゴー!ゴー!」「週刊シネマガイド」出演)
 和田竜哉(「ムーヴィーズゴー!ゴー!」ディレクター、「週刊シネマガイド」出演)

※「ムーヴィーズゴー!ゴー!」FMながおか(80.7MHz)毎週木曜18時30分より インターネットラジオでも聴けます!
※「週刊シネマガイド」ケーブルテレビNCT 11ch、「ちょりっぷナビゲーション」内で放送

akko:主演の役所広司さんが、カンヌ国際映画祭で最優秀男優賞を受賞したことで話題になりましたね。

和田:小津安二郎監督を敬愛するヴェンダース監督が、小津映画の常連・笠智衆さんの当たり役「平山」の名を主人公に冠した映画というだけで、見る前から期待が高まりましたよ。

野上:映像作家としての視点でまず驚いたのが、画面サイズですね。今どきめずらしい4対3のスタンダードサイズで。今の時代このサイズで新作を作ってシネコンで上映できるのかとビックリしました。前情報なしで観たので、役所さんが淡々と朝の支度をするシーンを観て「これは一体どういう映画なんだろう」と思いました。

akko:役所さん演じる平山は公衆トイレの清掃員で、渋谷区の公共トイレの再設計に取り組む日本財団のプロジェクト「THE TOKYO TOILET」の一環で製作された映画のようですね。

和田:安藤忠雄さん、隈研吾さん、坂茂さん、槙文彦さんと、錚々たる建築家たちが設計した美しいトイレですね。

akko:ここで暮らせそう、と思ってしまうような素敵な空間でしたね。ヴェンダース監督は来日して実際に一連のトイレを見て、「賑やかな渋谷のど真ん中にある静かなオアシス」と印象を語ったそうです。この映画を見て思い出したのは、作家の塩野七生さんの言葉で「職業に貴賎はないが、働き方に貴賤はあると思う」というひと言。平山の働き方を見ていると、彼の人柄や人生観まで伝わってきましたよね。

和田:平山はプライドを持って自分の仕事に真剣に取り組んでいます。柄本時生さん演じる、適当に生きている同僚とは正反対に。人間こうありたいと思いました。淡々とした日常の中でも、トイレに残されたメモで見知らぬ人とつながったり、平日と休日でメリハリを付けたりして、日々を楽しそうに送っているのが良いですね。

野上:ドキュメンタリータッチの映画ですよね。海外の映画学校ではまず最初にドキュメンタリー作品を撮らせてから、劇映画に入るらしいんですよ。リアルを追うことで表現として深みが出るという意図があるらしくて。ヴェンダース監督もキューバの老ミュージシャンを描いた「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」以降、表現者としてパワーアップしたような気がします。

和田:ヴェンダース監督は小津作品の中でも『東京物語』が特に好きということで、同作にオマージュを捧げた『東京画』というドキュメンタリー作品も撮っていますよね。だから今回は自分なりの『東京物語』を撮ったんだろうなと思いました。小津好きの外国人監督が観た今の日本、東京の映画です。

野上:あ、それ僕も言おうと思っていたんですよ。日本人以上に日本のことをよく知っているような感じがしました。

akko:物質主義に陥った人は、この静謐で上品な日本的感覚は分からないかもしれないですね。こうなると国籍云々より、受け手の側の価値観や哲学の問題かも。

野上:脇役に面白い人たちがたくさん出て来るのも良かった。特にグッと来たのが行きつけの飲み屋のママを演じた石川さゆりさん。やたら歌のうまい人で、妙に似ているなと思ったらまさかの本人で。

akko:私は翻訳家の柴田元幸さんのファンなので、カメラ屋のおじさんとして登場したときには「キャーッ」と叫びたくなるくらい嬉しかったです。

野上:ひとり暮らしの平山の孤独を埋めるのが、脇役の渋い人たち。その交流にも彼の人間性が出ていましたよね。ママの元夫とのふざけ合いみたいなシーンはグッときました。

和田:良い味出していたのが、犬山イヌコさん演じる古書店の女主人。休日に平山が買って行く文庫本に、必ずひと言ツッコミを入れるんですよね。もっといろいろ聞きたかったなぁ。

akko:読書家で音楽をこよなく愛する平山の姿を見て、それらがどれほど人生を豊かにするかを再認識しました。ただ同じ物語、同じ音楽に触れても、それに感動するか否かはその人の感性次第。木漏れ日の光に美を感じて心の糧に出来る平山だからこそ、テレビのないアパートでも満ち足りているんでしょうね。

和田:劇中曲の選曲はモロ好みでした。平山が聴いているであろう曲をヴェンダース監督が吟味したそうですが、それが役所さんにもドンピシャだったようです。僕も以前、若い頃の役所さんがアコギを弾きながら『朝日のあたる家』の日本語訳バージョンを唄っている姿を見たことがあります。

野上:ルー・リードの『パーフェクト・デイ』良かったなあ。それにしても本当に傑作です。大きな盛り上がりがある作品ではないですが、最初から最後まで集中力が途切れることなく観てしまいました。

akko:後半で、平山の人生の背景がちらりと描かれるのも良かった。全てを見せず、観客に託すヴェンダース監督は本当に良いですね。余韻が残る作品でした。

和田:今年は小津安二郎監督の生誕120年、没後60年という記念の年で、資料展や特集上映などが各地で開かれました。僕も小津監督のことを調べることがあって、多くの小津作品をまとめて観ましたが、その1年を締めくくるのにこれほど適した作品があるでしょうか、いやない!今年の締めの1本にぜひ!

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