映論言いたい放題 Film 233 2023年ベスト映画
毎年恒例のそれぞれのベスト映画を紹介。今回はT・ジョイ長岡のスタッフ2名のほか、映像作家の野上純嗣さんにもご参加いただきました。2023年の国内興行収入ランキングはトップ10のうち8作品が日本映画で、ラインクインした洋画は『ミッション:インポッシブル デッドレコニングPART ONE』と『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』の2本のみ。かつてはヒット作品の多くが洋画だったことを考えると、近年の状況には時代の流れを感じます。いずれにせよ、映画が楽しめるのは平和が世の中あってこそ。2024年も映画をたっぷりと観られる年でありますように……
参加者:
田中大輝(T・ジョイ長岡 アシスタント・マネージャー)
三浦佳子(T・ジョイ長岡 映写担当)
野上純嗣(映像作家)
akko(「ムーヴィーズゴー!ゴー!」「週刊シネマガイド」出演)
和田竜哉(「ムーヴィーズゴー!ゴー!」ディレクター、「週刊シネマガイド」出演)
※「ムーヴィーズゴー!ゴー!」FMながおか(80.7MHz)毎週木曜18時30分より インターネットラジオでも聴けます!
※「週刊シネマガイド」ケーブルテレビNCT 11ch、「ちょりっぷナビゲーション」内で放送
田中大輝 ベスト3(T・ジョイ長岡 アシスタント・マネージャー)
エヴァンゲリオンも、シン・シリーズもずっと観てきた自分としては、やはり1位は『シン・仮面ライダー』ですね。父親が仮面ライダー好きで、昭和のライダーも自分はよく見ていたんですよ。いかに庵野秀明監督がオリジナルのライダーを愛しているのかが、映画を通じて伝わってきました。単独でいきなり観ても楽しめますが、庵野監督は独特の世界観を持っている人なので、これまでの一連の作品を観てからのほうが、より楽しめるかも知れないですね。
2位は昨年のアカデミー賞で作品賞を受賞した『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』です。コインランドリーを経営するごく普通の主婦がマルチバースとリンクして、別の宇宙(ユニバース)から来た夫に説得されて世界の悪と戦うというすごい設定の作品で、ちゃんと理解しようとして頭がパンクしそうになりました。そもそもこれで物語は解決したのかとか、この解釈で合っているのかとか、いろいろ自分の中で整理しようとしても答えにたどり着かない作品ではありますが、とにかく理屈抜きで楽しい映画でした。
ジャズを題材にしたアニメ『BLUE GIANT』も良かったですね。原作のマンガをチラリと読んではいたのですが、やはり演奏シーンにちゃんと音楽が付いてストーリーが流れて行くのは映画ならではの醍醐味。あの場面で主人公が演奏していたのはこんな曲だったのかという発見もありました。純粋に「ジャズってかっこいいな」と思える作品でもありました。
23年の封切り作品ではありませんが『タイタニック』の4Kリマスターもよかった。これまでテレビでは観たことがあったのですが、劇場で観るのはこれが初めてで、余りの迫力に驚きました。コロナ禍で上映された『AKIRA』もそうですが、旧作でも名作はスクリーンで観られる機会を増やしてほしいですね。
三浦佳子 ベスト3(T・ジョイ長岡 映写担当)
1位は『仕掛人・藤枝梅安』です。2月3日に1作目、4月7日に2作目と続けて公開されましたが、なんといっても良かったのは1作目ですね。実は時代劇に熱狂したのはこれが初めてで、ずーっとため息をつきながら観ていました。話はシンプルで分かりやすいのですが、とにかく映像に情緒があって美しかった。豊川悦司さん演じる藤枝梅庵のかっこよさには惚れ惚れしました。
是枝裕和監督の『怪物』も心に残る映画でした。子ども同士のいさかいとそれを巡る学校の対応という事件を描きながら、それぞれの立場の違いや視点によって、見え方が変わるという表現が素晴らしかったですね。ラストシーンは衝撃でした。こうして今思い出すだけでも、ちょっと泣けてくるほどです。
実在の事件をベースにした『月』も『怪物』とは違う意味で衝撃の作品でした。実在の事件をベースにした映画で深く考えさせられましたね。もちろんどんな事情があれ人を殺すというのは許されることではありません。それを承知の上で、もし自分が同じ立場に立たされた時、心に浮かぶのはきれい事だけなのか…。鑑賞者の心の闇が試されます。社会に一石を投じる作品として、多くの人に観てほしい1本だと感じました。
ほかに『愛にイナズマ』もよかった。どうしようもない家族が出て来るんですが笑える映画で、作品全体に流れるライトな感じに救われました。
野上純嗣 ベスト3 (映像作家)
山崎貴監督、渾身の一作『ゴジラ-1.0』が2023年のベスト映画です。過去に何本も製作されてきた『ゴジラ』ですが、大森一樹監督が撮った頃から1作目のゴジラを超えようというような気概を作り手から感じるようになりました。『ゴジラ-1.0』はオリジナルに一番迫る傑作ではないでしょうか。終戦直後の日本という設定を通して描かれたゴジラは、まるで山崎監督の今までの作品の総結集のよう。傑作です!
『ミッション:インポッシブル デッドレコニング PART ONE』もすごかった。トム・クルーズってもう60代ですよね。還暦を迎えてこのアクションですよ。映画館で観客がスクリーンに釘付けになっているのが伝わってきました。中でも白眉は列車の場面。歴史に残る名シーンだと思います。これで『PART ONE』なんですよね。続編が今から楽しみです。
3位は『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』です。ハリソン・フォードは1942年生まれなので、撮影時はおそらく80歳近かったと思います。そのハリソンが演じたインディをCG技術で若返らせてしまった手法には、映像の新たな可能性を感じました。ニューヨークの街なかを馬で駆けるシーンは、古きよき西部劇へのオマージュ、初期のインディ・ジョーンズへの敬愛のようなものを感じました。
次点は『PERFECT DAYS』です。まず4対3の画角に意表を突かれました。主人公・平山の日々を映す日記映画のような演出でしたが、全体的に格調高いドラマになっていて、ヴェンダース監督の小津安二郎への尊敬を随所に感じました。
akko ベスト3(「ムーヴィーズゴー!ゴー!」出演)
衝撃的だったのは『仕掛人・藤枝梅安』です。監督が1作目はヨーロッパ映画でフィルムノワール、2作目はアメリカ映画で男祭と言っていましたが、時代劇のしっとり感と、チャンチャンバラバラの躍動感がそれぞれ味わえました。両方良かったのですが、やはり好きなのは1作目。オープニングから心を鷲摑みにされました。仄暗い映像、心に迫る音楽、とにかく世界観が素晴らしい。梅安と彦次郎の静かな男同士の友情も最高でした。
『PERFECT DAYS』が2位です。渋谷のトイレの清掃員として働く主人公「平山」の淡々とした日常を描いた作品なのですが、彼のその生き方はとにかく美しく、映画を観ながら作家の塩野七生さんが言っていた「職業に貴賎はないが、働き方に貴賤はあると思う」という言葉が心を過りました。音楽や文学というものが、いかに人生を豊かにする存在であるかということも痛感させられる一本でした。
3位は『モリコーネ 映画が恋した音楽家』です。モリコーネの名前を知らずとも、おそらく彼の作った音楽は誰もが一度は絶対に聴いたことがあると思います。好きを貫いて、その道のパイオニアとして活躍する人がいますが、モリコーネはまさにそんな存在。映画音楽を芸術にまで高めた人だということをこの映画で初めて知りました。
最後まで迷ったのが『怪物』です。常々「事実が必ずしも真実とは限らない」と思っているのですが、まさにそれを突きつけられるような映画でした。
和田竜哉 ベスト3(「ムーヴィーズゴー!ゴー!」ディレクター)
2023年は小津安二郎監督の生誕120年・没後60年という記念の年で、小津映画を観まくりました。その小津監督を敬愛して止まないヴィム・ヴェンダース監督が、現代の東京を舞台に撮った作品『PERFECT DAYS』は、ヴェンダース監督が解釈した新たな『東京物語』として、深く心に刻まれました。車内で好きな音楽を聴き、寝る前の一時を読書して過ごし、気持ちの良い木蔭でご飯を食べ木々の写真を撮り、他人とささやかな交流を持つ。なんて人生は素敵なのでしょう。
2位に選んだのは、こちらも周年だった作家・池波正太郎の人気小説を新たに映画化した『仕掛人・藤枝梅安』です。2本公開されましたが、良かったのは断然1本目。夜の暗さ、ロウソクの明かりの揺らめき、町の静寂さ…昔はきっとこうだったんだよなと思わせる演出の数々に唸らされました。特に秀逸だったのはラストシーン。静まりかえった雪の夜、やかんの音だけがする部屋で2人が正月を迎える場面は素晴らしかった。この渋い映画を監督したのが、数々のトレンディドラマを手掛けてきた河毛俊作さんだなんて、面白いですよね。
『ザ・クリエイター 創造者』は、それほど期待していなかった分、儲けもんでした。暴走したAIと人類の対決を描いたありきたりのSF映画かと思いきや、なんと絶対神の西洋的価値観と、八百万の神の日本的価値観の対比を中心に、東洋対西洋の精神的対立がテーマという意外さ。近年のチャイナマネーに毒されたハリウッドにあって、やはりサイバーパンクの世界は日本だよなと、『ブレードランナー』から続く価値観を守ってくれたギャレス・エドワーズ監督に拍手!