映論言いたい放題 Film 215 エルヴィス

映論言いたい放題

『エルヴィス』
2022年7月1日公開
■監督:バズ・ラーマン
■出演:オースティン・バトラー(エルヴィス・プレスリー)/トム・ハンクス(トム・パーカー大佐)/オリヴィア・デヨング(プリシラ・プレスリー)/ションカ・デュクレ(ビッグ・ママ・ソーントン)/アルトン・メイソン(リトル・リチャード)/ケルヴィン・ハリソン・Jr(B.B.キング)
■あらすじ:人気絶頂で謎の死を遂げたスーパースター、エルヴィス・プレスリー。禁断の音楽「ロックンロール」を生んだエルヴィスの伝説の裏側を描いた話題作。世界一売れた彼には強欲なマネージャーがいた。果たして彼を死に追いやったのは誰なのか。
© 2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
合評参加者:
 三浦佳子(T・ジョイ長岡 映写担当)
 akko(「ムーヴィーズゴー!ゴー!」「週刊シネマガイド」出演)
 和田竜哉(「ムーヴィーズゴー!ゴー!」ディレクター、「週刊シネマガイド」出演)

※「ムーヴィーズゴー!ゴー!」FMながおか(80.7MHz)毎週木曜18時30分より インターネットラジオでも聴けます!
※「週刊シネマガイド」ケーブルテレビNCT 11ch、「ちょりっぷナビゲーション」内で放送

三浦:実はエルヴィス・プレスリーって全く興味がなくて。この映画を観るまでは、有名なナンバーを数曲知っている程度だったんですよ。

akko:実際にご覧になっていかがでしたか。

三浦:まさかこんなナイーブな人だとは思わなかったですね。晩年になってからのイメージしかなかったので。

和田:たいがいの音楽ファンもそうなんですよ。最初はフリンジひらひらで太めのおじさんがラスベガスのショーで歌っているというイメージで。でも遡って聴いていくと、デビューしたばかりの頃とか本当にかっこよくて。イメージがガラリと変わるんですよ。

akko:初期のエルヴィスの音楽はかっこいいんですが黒人っぽいんですよね。私は「何をかっこつけて真似しているんだ」と浅はかながらずっと思っていたんです。この映画を観て、まさか彼が育った環境が黒人文化の真っ只中だったと知って驚きました。

和田:彼がアメリカ南部のメンフィス出身だということは知っていましたが、周りが黒人ばかりであそこまでどっぷり黒人文化に浸って育ったとは知りませんでしたね。B.B.キングと仲が良かったとかね。

akko:そうですよね、音楽好きにはたまらない人たちがたくさん出てきて。あんなすごい面々と交流があったことも知りませんでした。

三浦:まさかこんなかっこいい人だったとは。今の若い人たちはきっと名前も聞いたことがない人もいると思います。そういう世代にこそぜひ観て、エルヴィスの存在を知ってほしいですよね。

akko:エルヴィスは白人と黒人の垣根を音楽で取り払うというすごい役目もいつしか背負っていましたね。キング牧師も出てきたり。まさかバズ・ラーマンのミュージカルでここまでシリアスに泣けるとは思いませんでした。

三浦:バズ・ラーマンとは知らずに観て、最後のエンドロールで「ああ、らしいなあ」と納得しました。

和田:ギラギラのあざとい演出はエルヴィスのイメージに合っていましたね。

akko:それにしても父親が詐欺事件を起こさなければ、プレスリー一家は貧民街に行くことはなかったわけで。そうするとエルヴィスが黒人音楽に出会うこともなかったかもしれないと考えると、負の遺産が人生に転がりこんだおかげで、つかんだ幸運ですよね。

和田:負というと、トム・ハンクス扮する悪徳マネージャーが本当にひどかったですね。

三浦:あの人は問題だらけでしたが、金儲けの感覚は鋭かったですね。グッズ販売であえてエルヴィスを嫌う人向けの商品も作って「ファンだけじゃなくて、アンチからも儲けるんだ」とか、あの辺りはすごいと思いました。

akko:映画のあとに調べたのですが、マネージャーの取り分は儲けの15%、多くて20%が相場だそうです。それを50%も取っていたとは、強欲を絵に描いたような人でしたね。

和田:あいつが密航者で国籍がないことを隠していたせいで、海外公演ができなかったのは返す返すも残念。まさか本人が日本とドイツでの公演を熱望していたとは!

三浦:エルヴィスを演じていたオースティン・バトラーがそっくりで、特に後半は「もしかして本人なのか」と錯覚しそうになるときがありました。

和田:予告を見たときは、あんまり似てないじゃんと思っていたのですが……。

akko:私もです。観る前は「ミスキャスト?」と思っていたのですが、まるでエルヴィスが乗り移っているのかと思うほどのすごさでしたね。

和田:すごいというと、ラストの本人による熱唱シーンには泣けました。亡くなる2週間前のライブで、もう立てないほど弱っていたのに懸命に歌っている姿と、少年の頃に酒場でのブルースマンのライブを盗み見て目を輝かせていた姿がダブってしまって……。音楽が好きでたまらなかった1少年の生きざまをぜひ劇場でご覧ください。

T・ジョイ長岡 2022年8月オススメ映画

『NOPE/ノープ』
2022年8月26日公開

黒人親子が経営する牧場の上空に現れた巨大な雲。その中には何かが隠れており、牧場のきょうだいがそれをカメラに収めようとする。やがて事態は想像を絶する展開を迎えるのだった。ジョーダン・ピール監督、期待の最新作。


© 2021 UNIVERSAL STUDIOS

『異動辞令は音楽隊!』
2022年8月26日公開

犯罪撲滅に人生を捧げてきた熱血刑事・成瀬。しかし近年のコンプライアンス重視の風潮に逆らい強引な操作を進めてきたため、「やりすぎ」と判断されてしまう。そんな彼に下った異動辞令。行き先は警察音楽隊だった。


© 2022「異動辞令は音楽隊!」製作委員会

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