映論言いたい放題 Film 219 土を喰らう十二ヵ月

映論言いたい放題

『土を喰らう十二ヵ月』
2022年11月11日公開
■監督・脚本:中江裕司
■原案:水上勉『土を喰う日々』
■出演:沢田研二(作家・ツトム)/松たか子(担当編集者、ツトムの恋人・真知子)/奈良岡朋子(ツトムの義母・チエ)/火野正平(大工)
■あらすじ:作家のツトムは信州の山荘で、愛犬と13年前に亡くなった妻の遺骨と共に暮らしている。9歳から禅寺で育ち精進料理を身に付けた彼は、畑の野菜や山の幸を使って料理を作る毎日。東京からたまに恋人の真知子がたずねてくるときは、料理の楽しさがひときわ増すのだった。
© 2022「土を喰らう十二ヵ月」製作委員会
合評参加者:
 三浦佳子(T・ジョイ長岡 映写担当)
 akko(「ムーヴィーズゴー!ゴー!」「週刊シネマガイド」出演)
 和田竜哉(「ムーヴィーズゴー!ゴー!」ディレクター、「週刊シネマガイド」出演)

※「ムーヴィーズゴー!ゴー!」FMながおか(80.7MHz)毎週木曜18時30分より インターネットラジオでも聴けます!
※「週刊シネマガイド」ケーブルテレビNCT 11ch、「ちょりっぷナビゲーション」内で放送

三浦:観たいなと思っていた作品ではあったのですが、前情報をほとんど入れずに観たんですよ。それで私、勘違いをしてしまって…。編集者の真知子を、ツトムの娘だと思ってしばらく鑑賞していたんです。

akko:ツトムさんって名前で呼んでいましたけれど、たまにそういう親子っていますものね。

三浦:ですよね。だから、そういう親子関係なのかと思っていたんです。そしたら手を重ねたりして、これは何か違うぞとようやく気づきました。

和田:これは作家・水上勉さんの原作『土を喰う日々─わが精進十二ヵ月─』の世界観をベースにしている作品なんですよね。とは言いつつ、水上さんにも本当に真知子みたいな恋人がいたのかなと、ちょっと考えてしまいました。

三浦:真知子が、ツトムの手料理を食べるときの表情がたまりませんでした。

akko:映画のもうひとつの主役はツトムの作る料理の数々だと感じました。料理研究家の土井善晴さんが器選びから所作、手つきなど指導したそうですよ。

和田:沢田さんが本当に料理をしていることに驚きました。手元のアップも結構あるのですが、巧にこなしていて。できた料理もどれも美味しそうで。

三浦:なかでも筍料理は本当に美味しそうで、観ているだけでお腹が空いてきました。

和田:あれは堪りませんね。空腹で見に行かない方が良いですよ。

akko:私はお抹茶のシーンが印象に残りました。干し柿と一緒にお茶を飲んでいましたよね。あんな風に「3時のおやつ」を楽しめたらいいなあと思いました。

和田:長岡に住んでいるので冬の寒さとか雪の大変さはよく分かります。だから信州の山奥でツトムの暮らす家はどれだけ寒いんだろうとかつい考えてしまって。雪の中で野菜を洗っているシーンとか、これを実践するのは相当厳しいなあと思ってしまいました。

三浦:ああいう生活には憧れますけれど、時間とお金に余裕がないとちょっと難しいかもしれないですよね。

akko:もしツトムが会社員だったら、あの生活は出来ないだろうなと思いながら観ていました。それにしてもツトムもそうですけれど、個性的な人たちが出てきましたよね。

三浦:私は義理のお母さんのチエが好きでした。ぶっきらぼうで愛想はないけれど、優しさがにじみでていましたよね。

akko:この映画には人生の全てが詰まっている気がしました。食べること、死ぬこと、見送ること、生きること…。人生の節目ごとに観たい作品だし、おそらく年齢が高くなればなるほど、見えてくるものも違うんだろうなと感じました。

和田:ツトムは劇中で本当に死ぬかと思いましたよね。そうやって死を実際に意識したからこそ、十数年そのままにしていた奥さんの遺骨を最後に決着を付けることができたんでしょうね。

三浦:死と言えば、チエの葬儀シーンも良かったですね。みんなに愛されていることが伝わってきました。もともとツトムが禅寺にいたからか、どこか仏教的な作品でもありましたよね。

akko:心ない家族に看取られて形だけの葬儀を出してもらうことと、例え孤独死という最期だったとしたとしても愛してくれた縁ある人に送られるのと、果たしてどちら幸福か考えさせられました。

和田:そういったシリアスなことも深刻にならず、サラリと観ることができるのはやはり物語と共に描かれる自然の美しさも大きいですよね。

akko:撮影したのは松根広隆さんという方ですが、この方は長岡の映画監督、小林茂さんのドキュメンタリー映画『風の波紋』や『わたしの季節』でも撮影を担当していた方ですね。

和田:映画では季節の節目である二十四節気が効果的に使われていて、その季節に合わせた折り目正しい日々の営みには強烈に惹かれるのですが、真似をするのはその精神だけにしておこうと思います。

T・ジョイ長岡 2022年12月オススメ映画

『Dr.コトー診療所』
2022年12月16日公開

日本の西の端にぽつんと在る美しい島・志木那島。そこで島のたったひとりの医師としてコトーこと五島健助は暮らしていた。平和な島の暮らしにも過疎高齢化や、医療の再編問題が持ち上がり、コトーの生活にもその変化の波がやってくる。
大人気テレビドラマが16年の時を経てスクリーンに登場!


© 山田貴敏 © 2022 映画「Dr.コトー診療所」製作委員会

リバティデザインスタジオ

新潟県長岡市のデザイン事務所。グラフィックデザイン全般、取材・撮影・ライティング・編集などの業務を展開。

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