映論言いたい放題 Film 217 川っぺりムコリッタ
『川っぺりムコリッタ』
2022年8月26日公開
■監督:荻上(おぎがみ)直子
■出演:松山ケンイチ(山田たけし)/ムロツヨシ(島田幸三)/満島ひかり(南詩織)/吉岡秀隆(溝口健一)
■あらすじ:北陸の名もなき町にあるイカの塩辛工場に、山田というひとりの男が就職する。彼は社長の紹介で「ハイツムコリッタ」という安アパートで暮らし始めた。人と関わらずに生きていこうとしている山田だったが、アパートには個性的な住人が暮らしており、彼の静かな生活は彼らとの関わりで少しずつ変わっていく。
© 2021 「川っぺりムコリッタ」製作委員会
合評参加者:
三浦佳子(T・ジョイ長岡 映写担当)
akko(「ムーヴィーズゴー!ゴー!」「週刊シネマガイド」出演)
和田竜哉(「ムーヴィーズゴー!ゴー!」ディレクター、「週刊シネマガイド」出演)
※「ムーヴィーズゴー!ゴー!」FMながおか(80.7MHz)毎週木曜18時30分より インターネットラジオでも聴けます!
※「週刊シネマガイド」ケーブルテレビNCT 11ch、「ちょりっぷナビゲーション」内で放送
akko:この映画、予告編に良い意味で裏切られました。『かもめ食堂』の日本版でメインキャラが男性たちみたいな感じかと思ったら、もっとテーマがこう…
三浦:深かったですよね。
和田:シリアスな内容と、監督のノホホンとしたテイストが相まって、何ともいえない仕上がりになっていました。
三浦:ですよね。良い塩梅で重くなりすぎず、ほっこりしつつ泣けるし。もともと『かもめ食堂』とか『メガネ』とか好きで、荻上監督の最新作ということで観たいなとずっと思っていた作品でした。
和田:意外だったのが気味悪いシーンが少なくなかったこと。イカのグチャグチャしたところとか、目玉の固まりをアップにしたりとか、相手が塩辛を食べようとしているときに孤独死の話をしたりとか…。塩辛メーカーの人が怒るのではないかと心配になりました。
三浦:うじ虫のシーンなんかもありましたね…
和田:死生観をテーマにしているからなのか、不必要にきわどい表現が多いように感じました。
akko:キレイなだけじゃないですよね。出てくる人たちも社会の底辺にいるような、経済的には厳しい人たちで。でもあのハイツムコリッタでの暮らしは決して貧乏くさくないし、全くイヤな感じがしないんですよ。その辺りはさすがですよね。
三浦:ムコリッタのご近所付き合いは、昔風の人との関わりですよね。最近の私たちが失ってしまったような付き合い方で。
和田:だからああいう長屋風の建物をロケ場所に選んだんでしょう。暮らしている人たちがそれぞれに事情を抱えていて、それがみんな「死」と関係していましたね。
三浦:でも敢えて何があったかは、主人公以外はぼかしていた。あの辺りの描き方も絶妙ですよね。
akko:ムコリッタって響きからしてイタリア語?って思っていたら、仏教用語で「刹那」みたいな時間の単位で「牟呼栗多」というんですね。初めて知りました。
和田:確か48分でしたよね。ほかにささやかな幸せという意味もあるそうです。そういえば、松山ケンイチさん演じる山田がご飯を食べるシーンは最高でしたね。
三浦:いつ死んでもいいみたいな虚無感を漂わせながら、おいしいご飯が炊けるときには多幸感に満ちあふれた表情をしていて、印象的でした。
和田:生きることは食べることみたいな、生と死を強く印象付けました。山田が無縁仏になりかかった顔も覚えていない父親のお骨を引き取りに行くシーンがありましたよね。あれは監督が、テレビのドキュメンタリー番組でそのようなシーンを見た事が元になっているそうですよ。
三浦:あの引き取り手がない骨壺が役所に並んでいるシーンは衝撃でした。
akko:実は私はあれを見てちょっと安心したんですよ。身寄りがいなくても公的な機関がお寺にお骨を入れるところまでしてくれるのかと思ったら、ホッとしました。極端なことを言えば大富豪でも身寄りがなければ、最後は孤独死で無縁仏の可能性がありますからね。
三浦:切ないですね。
和田:とは言いつつも、ちゃんとファンタジーの要素もあって、おかしなシーンもありましたね。ヤギとかラスト近くのシュールな展開とかね。ああいうのがたまらないですね。
三浦:そういえば元たまの知久寿焼さんが、出てきましたよね。たまの曲で「夕暮れ時のさびしさに」というものがあるんですが、そこに牛乳とか、お坊さんが風船ガムとか、お米を研ぐとか出てくるんです。それを映画に落とし込んだみたいですよ。
akko:そうだったんですね。私は「命のダイヤル」の金魚の話が印象的でした。あれは死後の世界を肯定していますよね。それを先ほど和田さんも言っていましたが、ファンタジーで語った言葉だと感じました。これだけ死を描きつつ、観終わった後にさわやかな心持ちになれるって、すごい作品ですよね。
三浦:個人的にパスカルズが好きで、エンドロールでは泣きそうになりました。
和田:僕は見終わった後、地に足を付けてしっかり生きていこうと思いました(笑)
T・ジョイ長岡 2022年10月オススメ映画
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© 2022「いつか、いつも……いつまでも。」製作委員会
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