映論言いたい放題 Film 234 2024年ベスト映画
今年の映画を振り返る恒例記事。2024年ベスト映画は映像作家野上純嗣さん、ムーヴィーズ・ゴーゴーのDJワダ、DJakkoの3名の投稿です。24年の映画界を振り返ってみると、邦画の興行成績1位、2位は『名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)』『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』、洋画は『インサイド・ヘッド2』『怪盗グルーのミニオン超変身』となんといずれもアニメ作品でした。また配信作品の台頭も感じる1年でもありました。ではでは、2024年ベスト映画発表です!
参加者:
akko(「ムーヴィーズゴー!ゴー!」「週刊シネマガイド」出演)
野上純嗣(映像作家)
和田竜哉(「ムーヴィーズゴー!ゴー!」ディレクター、「週刊シネマガイド」出演)
※「ムーヴィーズゴー!ゴー!」FMながおか(80.7MHz)毎週木曜18時30分より インターネットラジオでも聴けます!
※「週刊シネマガイド」ケーブルテレビNCT 11ch、「ちょりっぷナビゲーション」内で放送
akko ベスト4(「ムーヴィーズゴー!ゴー!」「週刊シネマガイド」出演)

1.『私にふさわしいホテル』
12月27日公開の作品。年末ギリギリに、本当に面白い映画を観ました。柚木麻子さん同名小説の実写映画化なのですが、原作ファンとしては予告編を観た時から楽しみで仕方なかった作品です。新人賞を受賞したものの、その後鳴かず飛ばずの主人公がいかにして、文壇下剋上を果たしていくかという内容。山の上ホテル(閉館前に撮影)、カリスマ書店員、三島由紀夫のバルコニー演説等々、小説好きには刺さるものがてんこ盛りで出てきますよ!

2.『ジョン・レノン 失われた週末』
ジョン・レノンが、妻オノ・ヨーコと別居していた数年間についてのドキュメンタリー。
時期は1973年秋から75年初頭。わずか1年半ではあったものの、この間にジョンは前妻の息子ジュリアンと再会を果たしたり、アルバムをバシバシ作ったり、大物ミュージシャンとコラボしたりと絶好調だったという事実にフォーカス。当時を共に過ごした女性メイの視点から描かれており、非常に見応えある1本でした。

3.『九十歳。何がめでたい』
作家佐藤愛子さんの大ベストセラーエッセーを映画化。佐藤さんを演じるのは御年90歳(当時)の草笛光子さんです。心の中で思っていても言いにくいことってありますよね。でも佐藤さんは歯に衣着せぬ物言いでバッサリと踏み込んで本音を綴ります。その小気味よいこと、まさに気分爽快!そんな佐藤さんとコンビを組むのが、唐沢寿明さん演じる昭和の時代遅れ編集者として登場する吉川。彼が実に良い味を出していました。観た後に元気になれる1本です。

4.『ルックバック』
人生に「たられば」はないことは分かっていますが、あの時、別の選択をしていたら今頃どうなっていたんだろうと考えることって誰にでもありますよね。もうひとつの人生というSFのような要素を絡めながら、ただひたすら好きなこと(マンガを描く)に打ち込んで、青春の全てを捧げる二人の少女を描いた奇跡のような美しい映画でした。二人がたどる運命、その後訪れる未来。今思い出しても胸が締め付けられます。
野上純嗣 ベスト3 (映像作家)

1.『マッドマックス:フュリオサ』
ヒロインのフュリオサの素顔は、超ワイルド系の女優かと思いきや、全く正反対の華奢な、とってもキャワイイ女子だった。この落差を知って、この映画を観るのも、また醍醐味がある点。味わい深いだろう。キャスティングに、こんな手法を執ってくるジョージ・ミラー監督は、御歳80歳ながらも、全編において、相変わらず全然パワーが衰えることのない演出力で驚愕ものだった。ボリューム満点の肉厚ステーキを日々、食べているからなのだろうか。監督の見た目も迫力満点なのだ。

2.『ツイスターズ』
昔で言うB級映画の佳作ってやつだろう。のっけから飽きさせない展開で、グイグイ引き込んでいく。主人公が、まさか、この男性という、意外性を持たせる演出が心憎い。相手が美しいヒロインなら尚のことである。これが功を奏し、爽やかな感動をラストに残していく。強大な竜巻による災害が物語の確信ではあるが、そこはアメリカ映画だ。エンターテインメント性とラブストーリーの要素は、しっかりと欠かさない。しかし、竜巻襲来の対応策が、やはり、施されているのだなと思った。

3.『はたらく細胞』
体内細胞達のキャラクタ―分けされたコスチュームデザイン等が、とても鮮やか、華やかで、ゴージャス感を与える。どこかイギリスのミュージカル映画的な装いも感じさせるが、そうではない。対比となる笑いを誘う巷の俗めいた現実世界の描写に、映画「テルマエ・ロマエ」「翔んで埼玉」等の竹内英樹監督らしさが滲み出る。白血球役を演じる佐藤健さんのアクション等に、映画「るろうに剣心」のパロディも感じ取れる。ラストも、ありがちなのだが、細胞ならではの説得力を持つ。
和田竜哉 ベスト5 (「ムーヴィーズゴー!ゴー!」ディレクター、「週刊シネマガイド」出演)

1.『関心領域』
アウシュビッツ強制収容所の所長一家が暮らす裕福な家。花が咲き誇りプールまで備えられた庭で無邪気に遊ぶ子どもたち。その奥にはどこまでも続く高い壁。そしてその壁の向こうで絶え間なく上がる煙とかすかに聞こえてくる悲鳴。この画面設計が物語を全て代弁しており、実に空恐ろしい光景で寒気を覚える。家長でありナチス将校でもある父親が焼却炉の効率化に腐心する様子や、貧しい家の出で贅沢な暮らしを謳歌する母親が家や庭を飾り立てることに執着する様子が強烈な印象を残す。

2.『ルックバック』
『チェンソーマン』で有名な藤本タツキの原作をアニメ化したもの。58分という尺で作品の世界観を表現し切れるのかという懸念は杞憂に終わる。作者自身の生い立ちが投影されたかのような、少女2人のマンガへの情熱やお互いを意識する姿が愛らしい。また2人が協力して作品を作り、上を目指す過程は高揚感に溢れているだけに、その後に訪れる悲劇の衝撃は大きい。この思いをどこに持っていけば良いのだと呆然とする私に、作者は見事な展開を提示する。

3.『落下の解剖学』
雪の山荘で暮らす夫婦と一人息子と一匹の犬。ある日、夫が山荘の上階から転落死してしまうが決定的な証拠がなく、事故なのか自殺なのか、はたまた殺人なのか分かぬまま、妻が殺害したとする裁判が始まる。この映画のキーになるのが、一人息子が視覚障害を持っており、全く見えないこと。その息子をサポートし常に共にいる飼い犬も、犬故に証言ができない。なかなか良質なミステリー仕立てなのだが、それだけに終わらず、息子が重い決断を下すのだ。彼は言う「それでも人生は続く」と。

4.『コット、はじまりの夏』
少年少女の成長物語に弱い筆者。それが特別な季節「夏」と合体すればもう無敵なのだ。この作品はまさに王道を行っているのだが、舞台を1980年代のアイルランドに置き、主人公を大人しい少女に設定することで独自色を出している。学校にも自宅にも居場所がない9歳の寡黙な少女が、農場の親戚夫妻の家で過ごすことで少しずつ自分らしさを取り戻していく過程は、思わず頑張れ!と応援してしまう。メインビジュアルに使われている、少女の透明で一途な眼差しが汚れちまった己が心に刺さる。

5.『ありふれた教室』
ドイツの中学校で盗難事件が起こり、学校側の強引な対応に納得のいかない新任の女性教師が自ら解決に乗り出すものの、かえって保護者や生徒、さらには同僚からの反撥に遭い、信頼関係が崩壊して行くという内容。なんとかしようともがけばもがくほど状況が悪化していくという、ジリジリした展開が続く。問題の渦中にいる生徒が帰ろうとせず、静まりかえった校内の描写が続いた後、あっと驚くラストシーンが訪れる。今ならどこの国でも起こり得る話。






