鹿島茂コレクション 花開くパリ・モダン at 新潟県立万代島美術館
フランス文学者の鹿島茂さんについて知ったのは、いつの頃だっただろうか。雑誌『FRaU』に連載されていた文章がきっかけだったことは覚えている。7歳のときに『ベルサイユのばら』を読んで以来、フランスと聞くだけで顔がにやけるような少女時代を過ごした私にとって、フランス文学のヒロインや歴史的人物(いわゆるお姫さま)について、これでもかと面白い文章で綴る鹿島さんの連載がとても楽しみだった。
今回の展覧会は、鹿島さんが40年以上にわたり収集を続ける膨大な西洋古書コレクションで構成されている。鹿島さんが自らをコレキュレーター(コレクターとキュレーターの造語)と呼んでいることを、今回の展覧会の解説で初めて知った。
この展覧会は「コレキュレーター人生の総決算的な展覧会」と本人が語っていると解説にあり、ワクワクしながら会場へと進んだ。
コレクションの幅広さに驚愕!
展覧会は
Ⅰ. 20世紀初頭の風刺画――モダン・グラフィックの誕生
Ⅱ. 花開くフランスのモダン――出版物に見るアール・デコ
Ⅲ. モダン・グラフィックの展開――1930年代を中心に
の3部構成になっている。
「20世紀前半のフランスで花開いた新しい時代の感覚―「モダン」の様相を、鹿島茂コレクションならではの視点でご紹介」とある。
この展覧会は昨年、群馬県立館林美術館でも開催されたが、新潟展では、鹿島茂コレクション初公開ということで、特に人気が高いグランヴィルやフランス絵本も特別出品されている。解説文には「パリの古書店でグランヴィルを発見して以来、人生が変わってしまった」という鹿島さんの言葉が紹介されていた。
ちなみにグランヴィルとは「19世紀前半のフランスを代表する風刺画家・挿絵画家」のことだ。実は恥ずかしながら今回初めて知ったのだが、こうして新しい世界が開かれていくのも、展覧会の楽しみのひとつだ。
グランヴィルコレクションのほか、風刺イラストがたっぷり楽しめる構成になっている。
20世紀初頭の風刺画
女性が車に轢かれて血を流しているという、少しショッキングな風刺画は『ラシエット・オ・ブール(バター皿)』という雑誌に掲載されたもの。この誌名は「うまい汁と結び付いた権力」を意味しており、フランスで最も影響力のある風刺雑誌だったと紹介されていた。ちなみにこちらの絵には「まずは敬礼だ、パリ市庁の車だからな」というキャプションが付いていた。

©鹿島直 (NOEMA Inc.)
この展覧会は、イラストレーターや作家だけでなく、その背後にいる編集者やアートディレクターの存在にも注目したものとなっている。雑誌『ル・モ』は第一次世界大戦が始まり、表現への検閲が強くなったときに、詩人ジャン・コクトーが風刺画家ポール・イリーブと共に立ち上げたと紹介されていた。戦争で高級モード誌が休刊になり、職を失ったイラストレーターたちにとって『ル・モ』が救いになったそうで、社会的な出来事と当時のメディアがどのようにリンクしていたのかが伝わる展示になっていた。
下のイラストはラウル・デュフィが描いたもので、フランスを象徴する鶏が、黒い鷹のドイツを踏みつける様子を表したもの。

©鹿島直 (NOEMA Inc.)
花開くフランスのモダン
とにかく見ていて楽しい!と思える展示が「Ⅱ. 花開くフランスのモダン――出版物に見るアール・デコ」にたっぷりあった。当時はまだ写真技術が発達していないため、モード雑誌はイラストが主流だった。そのため流行の最先端のファッションは、若く才能あふれるイラストレーターによって描かれていた。美しいものを見ている時間は癒やされるひととき。ファッション雑誌を眺めているだけで、幸福を感じることがあるが「当時の女性たちも、このイラストを見ながらうっとりしていたのかしら」と思いを馳せてしまった。

©鹿島直 (NOEMA Inc.)
当時のモードファッションを実際に扱っていた高級デパートに関する展示もあった。デパートが顧客に無料配布した「アジャンダ」というものが紹介されているのだ。これはデパートの催事イベントなどの年間予定表が掲載された手帳なのだとか。それにしてもなんと幅広いコレクション!

©鹿島直 (NOEMA Inc.)
グランヴィルに並ぶもうひとつの目玉が絵本のコレクションだ。
おしゃれで可愛らしくて、和む空間だった。『ぞうのババール』も展示されており、ファンなら感涙ものではないだろうか。
展示されている絵本のうち何冊かは、日本語に翻訳されたものが展示室を出てすぐのところに置いてあるので、気になった方はぜひそちらもどうぞ!
下の作品は、おもちゃの人形が主人公のバレエのピアノ譜。

©鹿島直 (NOEMA Inc.)
モダン・グラフィックの展開
美しく可愛い作品たちを鑑賞してふわふわ気分になった後に待っていたのは、戦争時代を伝える雑誌の数々だった。
「見た、見られた」という意味のタイトルを付けた雑誌『ヴュ』は、第二次世界大戦へと向かって行く流れをしっかりと追いかけていた。ロバート・キャパの有名な写真「崩れ落ちる兵士」の掲載紙は必見。
雑誌というメディアが、おしゃれファッションの発信元であると同時に、後に振り返ると歴史の証言者であることなど、さまざまな顔を持つことが伝わってきた。

©鹿島直 (NOEMA Inc.)
また、展示室に入ってすぐのところに「フランスのできごと」をまとめた関連年表があり、その出来事に関係した作品がある場合は展示されている章が明記されているので、ぜひ見てほしい。
さらにもうひとつチェックしてほしいのが、館内の装飾だ。展示に合わせてさまざまなデザインがされているので、作品とともにそちらにもぜひ注目を!
鹿島茂コレクション 花開くパリ・モダン
新潟県立万代島美術館
会期:2026年7月11日(土)〜2026年9月6日(日)
休:7月13日(月)、27日(月)、8月17日(月)、24日(月)、31日(月)
料金:一般/1,500円 大学・高校生/1,100円 中学生以下無料






