ジブリパークとジブリ展 at 新潟県立近代美術館

アート・展覧会

2022年11月、愛知県長久手市の愛・地球博記念公園内に開園したジブリパークは、スタジオジブリ作品の世界を表現した公園だ。まずは「ジブリの大倉庫」「青春の丘」「どんどこ森」の3エリアがオープン。その後2023年11月に「もののけの里」、そして今年3月には「魔女の谷」が開園し、5エリアを楽しめるようになった。
ファン垂涎の魅力的な施設はどのようにして生みだされたのか。その舞台裏を紹介する展覧会が「ジブリパークとジブリ展」だ。

ジブリパークの制作現場を指揮した宮崎吾朗さん

ジブリパークの制作現場を指揮したのは、スタジオジブリのアニメーション映画監督・宮崎吾朗さんだ。実は宮崎さんは信州大学農学部森林工学科を卒業後、公園緑地や都市緑化などを手掛ける企業に就職。ジブリでの仕事を始める前は、公園などの設計を手掛ける建設コンサルタントとして働いていたのだ。展覧会の開場式では、旧中条町でのプロジェクトに関わったことがあると、本県との思わぬご縁を披露していた。
三鷹の森ジブリ美術館では総合デザインを担当し、2001年の開館から2005年まで初代館長も務めた。また2005年開催の愛・地球博では「サツキとメイの家」の制作を担当した。
この展覧会は宮崎吾朗監督のこれまでの仕事と作品を振り返り、ジブリパーク誕生の舞台裏を制作資料や試作品で紹介している。

開場式に登壇した宮崎吾朗さん

ちなみに宮崎さんは2011年に新潟県立近代美術館で「借りぐらしのアリエッティ×種田陽平展」が開催された際には、展示ディレクションのため来館していたほか、同年7月に公開された自身の監督作品『コクリコ坂から』のプロモーションでも長岡市を訪れたことがあるそうで、懐かしそうに当時を振り返っていた。

トトロやネコバスがお出迎え

展示室の入り口ではトトロがお出迎え。入る前からテンションが上がってしまう。

トトロの手元に注目

会場にはネコバスも登場!大人も乗車可能なので、ぜひ童心に返って、楽しんでみてほしい。ネコバスでは「行き先表示」も要注目。この展覧会は長野を皮切りに愛知、兵庫、熊本、山口、高知を巡回しており、その地域限定の遊び心をチラリと感じさせる展示がある。そのひとつがネコバスなのだ。

ネコバス。車内のシートはふかふか

はじまりは三鷹の森ジブリ美術館

© Museo d’Arte Ghibli
展示の第1章のタイトルは「はじまりは三鷹の森ジブリ美術館」だ。宮崎吾朗さんは、宮﨑駿監督が考えた「こういうものをつくりたい」というイメージを具現化していくことが自分の仕事だった…と振り返っている。「こんな美術館にしたい」という言葉の下に描かれた美術館の外観イメージを見て驚愕した。今まさに三鷹に建っている美術館をスケッチしたかのようだ。この美しい絵を現実の建物として形にして行く過程に、どれだけの苦労があっただろうかとしみじみ考えてしまった。

美術館構想時のイメージボード

ジブリ美術館内の柱のレリーフ、館内サインなどのデザインスケッチも展示されており、イメージが具現化される様子を目にできる。
筆者は三鷹の森ジブリ美術館に行ったことがあるのだが、すっかり浮かれて我を忘れてしまい、細かい所までじっくり見て回る余裕が無かったのだ。展示を見ていたら、すぐにでもジブリ美術館に行きたくなってしまった。

スケッチと写真をじっくり見比べてほしい

ジブリ美術館では、自分がどこにいるのか分からなくなることが何度もあった。それもそのはず、同館のキャッチコピーは「迷子になろうよ、いっしょに。」なのだ。筆者も館内をグルグルしてしまった。それもまた楽しいと感じながらも、見逃しがあったらもったいないと、懸命に歩いたことを思い出した。

このスケッチを記憶に焼き付けて、もう一度三鷹に行きたいと思った

アニメーションの世界をつくる

宮崎吾朗さんはジブリ美術館の館長を務めた後、アニメーション映画監督を務めた。それをじっくり解説しているのが第2章の「アニメーションの世界をつくる」だ。こちらのコーナーには宮崎吾朗監督作品の『ゲド戦記』『コクリコ坂から』そして、ジブリ初のフル3DCGアニメーションとなった『アーヤと魔女』のイメージボードやデザイン画、背景美術などが展示されている。
『ゲド戦記』初期のイメージボードには、実際の映画にもないシーンも含まれている。多くの絵を描き、イメージを具体化することで「物語や映画の世界観を煮詰めていく」と解説されていた。

『ゲド戦記』の初期イメージボード。これらを見て、映画のシーンを思い出す時間も楽しい

制作のヒントになるような、ずばり「イメージの源」というタイトルの展示資料もあった。ひとつの映画に、有名な絵画や書籍、監督自身が訪ねた思い出の風景など、さまざまな要素が下敷きになっていることが一目で分かる展示で、興味深く見入ってしまった。

『ゲド戦記』や『コクリコ坂から』のイメージの源になった資料の数々

背景美術の展示では『コクリコ坂から』のカルチェラタンが紹介されていた。青春まっただ中の学生たちが集うあの古い建物は、独特な魅力が漂っていた。建築好きな私は、映画に登場する建物に愛着を覚えることがあるが、カルチェラタンもまさにそんな建造物のひとつだった。その舞台裏をワクワクしながら鑑賞した。

『コクリコ坂から』の背景美術の展示

宮崎吾朗監督曰く「CGで映画を作るとはどういうことか、分かりやすく展示」しているのが「アーヤと魔女展」のコーナーだ。
3DCGと2Dセルアニメの制作はどう違うのか?『コクリコ坂から』と『アーヤと魔女』を例に、それぞれの制作工程を分かりやすく解説したパネルも展示。登場人物のキャラクターがユーモアを交えながら説明していく…という体になっており、非常に分かりやすい。

「アーヤと魔女展」の展示コーナー

宮崎吾朗監督の作業デスクも展示。「イメージを言葉で探っていくのが脚本、絵で探っていくのがイメージボード」など、解説パネルには興味深いことが書かれていた。

ここにも新潟会場だけの遊びが隠れている。ヒントはデスクの上

アニメーションの世界を本物に

2005年の愛・地球博では『となりのトトロ』の「サツキとメイの家」がパビリオンとして建設された。その5分の1スケールの模型が展示されている。映画では家のすべてが描かれるわけではないが、映らない部分も含め、素材や建築技法などを調査・検証しながら作業は進められた。

サツキとメイの家 5分の1スケール模型

サツキとメイの父親は考古学者で、洋間を書斎として使っていた。
会場では初代のパーゴラ(日よけの棚)が飾られており、実物のスケール感が伝わる。

サツキとメイの家 実際に使用されたパーゴラ

ジブリパークのつくりかた

ここまで宮崎吾朗監督がスタジオジブリで取り組んできた仕事と作品を振り返ってきたが、展示の最終章はずばり「ジブリパークのつくりかた」。
「2024年3月に全てのエリアが開園したことで、これまでの展示に加え、新たに魔女の谷ともののけの里の展示が増えました。新潟会場はいち早くそれらの展示を見ることができます」と宮崎さんは開場式で語った。
アニメーション映画の制作と同様、ジブリパークのイメージスケッチなどが多数展示されていた。実は4月にジブリパークを訪ねたばかりなのだが、イメージスケッチの段階から、かなり具体的に構想されていたことが分かった。

ジブリパークのイメージスケッチなど

「青春の丘」では『耳をすませば』に出てくる「地球屋」や、『猫の恩返し』の「猫の事務所」などが建っている。「地球屋」にあるからくり時計の模型や制作資料に感激!
これから訪ねる人は「ジブリパークを楽しむための予習」と思い、展示を見て回ると、実際に訪ねたときの楽しさが増すこと間違いなしだ。

からくり時計の資料展示

「ジブリの大倉庫」は、ジブリパークの公式サイトでは「まさにジブリの大博覧会。映像展示室をはじめ、3つの企画展示、ショップやカフェなど、”ジブリ”がぎゅっとつめこまれています」と紹介されている。このジブリの大倉庫だけでも1日かかりそうなほど魅力的な施設なのだ。
ジブリの大倉庫には『千と千尋の神隠し』の湯婆婆がいる「にせの館長室」があるのだが、展覧会ではその特別バージョンを見ることができる。

にせの館長室 展覧会特別バージョン

今年3月に開園した「魔女の谷」に関する展示も新潟会場から初登場。
『ハウルの動く城』に登場する「ハウルの城」の20分の1スケール模型をはじめ制作資料などが盛りだくさん。
そのほか『アーヤと魔女』の「魔女の家」、宮崎監督がデザインした看板などのスケッチもじっくり見ることができる。

ハウルの城 20分の1スケール模型

最後は「ジブリの大倉庫」にある企画展示「なりきり名場面展」から『千と千尋の神隠し』のワンシーンを再現。カオナシの隣に座って写真撮影ができる。(記念撮影はスタッフがしてくれる)

ジブリのなりきり名場面展 再現展示

展覧会の特設ショップではジブリグッズがたっぷり。
ジブリパークとジブリ展では、各会場限定デザインのオリジナルピンズも販売されており、新潟会場の限定ピンズには、稲穂とトトロがデザインされていた。

新潟会場限定ピンズ(880円税込)

新潟県立近代美術館
ジブリパークとジブリ展
2024年4月17日〜6月9日
新潟県長岡市千秋3-278-14 TEL:0258-28-4111
休館日:月曜日
午前9時〜午後5時(美術館窓口での観覧券販売は16:30まで)※混雑状況により販売・入場制限を行う場合があります
観覧料:一般1,900円、大学・高校生1,400円、中学生以下無料
© Studio Ghibli

和田明子 Akiko Wada

リバティデザインスタジオスタッフ/かわいいもの探求家。 新潟日報「おとなプラス」、県観光協会のサイト、旅行情報サイトなどさまざまな媒体にライターとして寄稿し...

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