華麗なるパリ ベル・エポック展 at 新潟県立近代美術館

アート・展覧会

新潟県立近代美術館は今年、開館30周年を迎えた。その周年記念として開催されている企画展のひとつが『華麗なるパリ ベル・エポック展 ―フランス・モダン・ポスター』だ。キャッチコピーは「ポスターで時間旅行、しよう」。担当学芸員の平石昌子さんは「ポスターは、その当時の人の生活を写す鏡」と語る。約130点のさまざまなポスターを鑑賞しながら、19世紀末から20世紀末の世界にタイムトリップしてみよう……という趣向だ。

ポスターの父、そしてポスターをアートに高めた画家

今回の企画展は、京都工芸繊維大学・美術工芸資料館のコレクションで構成されている。ベル・エポック(良き時代)とは、19世紀末頃から第一次大戦勃発の1914年までを指す。本展はタイトルに「ベル・エポック」と謳ってはいるものの、制作年代に厳密にはこだわらず、その後に続くアールデコの時代なども網羅している。
展示は4章仕立てで、第1章は「近代ポスターの始まり シェレそしてロートレック」だ。ジュール・シェレ、あまり馴染みのない名前だが、実は『近代ポスターの父』と呼ばれる人物で、当時は大変な人気を誇っていた。

シェレの一連の作品。女性たちを生き生きと描いたポスターは大衆の心を掴んだ

植字工だった父親の元に生まれたシェレは、自らも印刷工としてイギリスで石版印刷の技術を習得。印刷機を購入してフランスに戻り、自らの工房を開いた。印刷の仕事は分業制だが、画家でもあったシェレは、自身でデザインをしたものに自らイラストを描き、印刷まで行っていた。画家の絵に不満を持ったり、逆に自身が描いた絵を思うようなイメージで使ってもらえなかったり、印刷技術が低くせっかくのデザインを台無しにしたり…そういったストレスとは無縁に、まさに自分の思うがままを、自由に創り出すことができたのだ。

左は『日本版画博覧会』のポスター。当時フランスでジャポニズムが流行していたことが伝わってくる

ポスターをアートにまで高めたと評されているのが、画家のロートレックだ。彼は36歳の若さで亡くなっているため、ポスターの制作数はあまり多くない。下の写真の一番右のポスターは、ロートレックの名前は知らずとも、どこかで見かけたという人も多いのではないだろうか。こちらは《ディヴァン・ジャポネ》というミュージックホールのポスターだ。描かれている横顔の女性は、ジャンヌ・アヴリルというロートレックお気に入りの踊り子だ。少し分かりにくいが、左上にいる首から下が描かれた女性はイヴェット・ギルベールという当時の人気歌手だ。あえて顔を見せずに、彼女のトレードマークだった黒い長手袋を描くことで人物を知らしめるという、斬新な手法を取っている。

首から上を描かないという斬新な手法は、ロートレックが好きだった浮世絵の構図から影響を受けたと言われている

見ているだけで楽しい「パリのモダン・ライフ」

第2章は「パリのモダン・ライフ」だ。「産業革命が進み、工場で多くの商品が生産され、物質的に豊かになっていった。それに伴い、消費を促すようなポスターの需要も高まっていった」と、当時の時代背景を平石さんは解説してくれた。

観ているだけで楽しいポスターの数々

中でも気になったのが、下の写真左側の「満月印のパスタ」。白ワインと、ソースもかかっていないパスタ、それを観ているお月様というシンプルな作品だが、妙に心に残り、観ているうちにパスタが食べたくてたまらなくなってきた。制作年は1922年と、およそ1世紀前。まさに100年の時を超えて、消費者に対する訴求力を持つすごい広告だと感じた。

この「満月印のパスタ」は、近年復刻して再販する会社が現れたという

ポスターの文言はフランス語で書かれているが、隣に和訳が書いてある。こちらは「満月印」の隣にあった代用バターのポスターの説明書きだ。

ストーク社の代用バターのポスターの日本語訳

こちらはワインのポスター。通常、ポスターというとイケメンや美女を使って、憧れ心をくすぐりながら購買を誘う…というのが定番だと思っていた。しかしなぜかこの頃のポスターに描かれているのは「ちょっと面白いお顔」や「ずんぐりむっくり」な人物が多く、興味深かった。

いずれもワインのポスター。描かれている人たちは微妙なルックス

自転車のポスターを集めたコーナーもあった。当時、自転車は大流行の乗り物で、自由の象徴だった。自動車学校ならぬ「自転車学校」もあったのだとか。描かれているのが女性ばかりというのも興味深い。ポスターは時代や歴史を写す鏡ということを実感した。

自転車に乗る女性たちのポスター

時代といえば、アールデコ時代を代表する作家と呼ばれているカッサンドルのポスターもあった。中でも白眉は寝台特急北の星号のポスターだ。車両を描かずに寝台列車を表現したという1枚には思わず唸らされた。
そのカッサンドルに影響を受けたと言われる日本人デザイナー、里見宗次が手掛けたポスターも展示されていた。里見は日本人で初めてパリ国立美術学校に入学した人物で当初は油絵を学んでいたが、生活のために広告会社に就職し、商業美術に転じたという経歴の持ち主だ。いずれもぜひ会場で確認してみてほしい。

第3章は「眼差しの時代」だ。ベル・エポックは、博覧会が多く開催された時代でもあった。「例えば開催地のパリやロンドンなどでは、世界旅行に行かなくとも、会場を一巡すれば世界一周をしたくらいの経験が得られた。それは目で見ることで疑似体験できる時代になったということ」と、平石さんは解説する。
女流芸術展「世紀のパリジェンヌ」産業館、歴代フランス将軍大回顧展、「舞踏宮」1900年パリ万博など、タイトルだけでそそられるものがずらりと並んでいる。

第3章「眼差しの時代」のコーナー

ファッション誌、社会風刺の雑誌などのポスターも展示。雑誌や新聞などの媒体が盛んに売れるようになり、多くのイラストレーやーや漫画家などの表現者に、仕事の場がもたらされた時代でもあったそうだ。

中央は雑誌のポスター、右は女流芸術展「世紀のパリジェンヌ」産業館ポスター

明るい夜がもたらしたもの

最後の第4章は「ベル・エポックの夜」だ。19世紀末、パリに電灯が登場し、ガス灯と併用されるようになった。夜でも明るい街になったおかげで、犯罪が減り人々は安心して出歩けるようになった。それにより舞踏会、オペラ、観劇などの需要が増え、さらにそれを告知するポスターも作られていった。文明の進歩が文化にも影響を与えていくことが、ポスターから伝わってきた。

オペレッタのポスター。左端の「ココリコ」は鑑賞者から人気が高い1枚だそうだ

夫の川上音二郎と共に欧米巡業に出て、人気を博した女優「マダム貞奴」の公演ポスターも展示されていた。その隣はスカラ座の「イヴェット・ギルベール公演」のポスターだ。イヴェット・ギルベールは、第1章でロートレックが顔を見せずにトレードマークの長い黒手袋を描くことで表現した、あのスターだ。「こんな顔をしていたのか」と興味深く見てしまった。

「イヴェット・ギルベール公演」スカラ座と、「サダ・ヤッコ」のポスター

ポスター界の巨匠ともいうべきミュシャがブレイクするきっかけになったのは、人気女優サラ・ベルナールの舞台「ジスモンダ」のポスター制作がきっかけだった。「ジスモンダ」をいたく気に入ったサラはミュシャと専属契約を結び、以降のポスターも次々と話題になった。女優とデザイナーが互いに名声を高め合うことになった、非常に幸運な組み合わせと言えるだろう。

ミュシャの「椿姫」(左)と「ジスモンダ」。どちらも人気女優サラ・ベルナールを描いたもの

ミュシャと同じように、アーティストに気に入られポスターを手掛けたのがシャルル・ジェスマールだ。ジェスマールを気に入ったのはミスタンゲットという当時の人気歌手。左のポスターがそのミスタンゲットを描いたものだ。本人の写真と比べると、大きな目や口角の上がった口元など、見事に特徴を捉えている。

シャルル・ジェスマールのポスター

そもそもポスターは、広告のために作られたもの。時代を経て、デザイン性の高さからアート作品と肩を並べ美術館に展示されるようにもなったが、当時はもちろん街頭に貼られ、道行く人たちの目を楽しませていた。その様子が分かるパリの街角の写真も展示されていた。
また1900年に開催されたパリ万博の様子を伝える写真を、大画面でスライド上映しているコーナーもある。それらを前にすると、当時の人たちと同じ物を今私は目にしている…と、まさに時空を超えて、その時代とリンクしているような気分になった。

パリの街角を飾るポスター

新潟県立近代美術館
華麗なるパリ ベル・エポック展 ―フランス・モダン・ポスター
京都工芸繊維大学 美術工芸資料館コレクション
2023年7月18日~8月27日
新潟県長岡市千秋3丁目278-14 TEL:0258-28-4111
休館日:月曜日(7/17、8/14は開館)
午前9時~午後5時(観覧券販売は閉館30分前まで)
観覧料:一般1,300円、大学・高校生1,100円、中学生以下無料

7月30日は映画鑑賞会「ディリリとパリの時間旅行」、
7月29日、8月19日は美術鑑賞講座など夏休み期間中は、関連イベントが目白押し。
詳細は県立近代美術館のHPまで!

リバティデザインスタジオ

新潟県長岡市のデザイン事務所。グラフィックデザイン全般、取材・撮影・ライティング・編集などの業務を展開。

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