JUNKO KOSHINO コシノジュンコ 原点から現点 at 新潟県立万代島美術館

アート・展覧会

世界的デザイナー、コシノジュンコさんの展覧会が新潟県立万代島美術館にて開催中だ。
タイトルは「原点から現点」。大阪に生まれ、ファッションの世界を目指した若き日の原点から、服飾デザインのみならず様々なジャンルで活躍する現在までを、およそ200点の展示を通して体感できる、イベントのような躍動感のある展覧会となっている。

世界的デザイナーと新潟との縁

コシノジュンコさんは大阪府岸和田市の、母親が洋裁店を営む家に生まれた。3人の娘は相次いで服飾の道に進み、全員が著名デザイナーとなった。このコシノファミリーの物語をベースに作られたのが、NHKの連続テレビ小説「カーネーション」だ。
世界を舞台に活躍を続けるコシノさんだが、実は本県とも深い由縁があったのだ。

コシノジュンコさん

ニットの産地として歴史のある見附市では、市内の小中学校を会場としたファッションショー「JUNKO KOSHINO 見附コレクション」を、91年から96年にかけて3回開催。他にも市立病院のユニフォームデザインを行ったり、1997年から2002年にかけては「まちづくりアドバイザー」として、市内の小中学生を対象としたTシャツデザインコンテストを毎年開催したりと、10年以上に渡って縁が続いたのだ。
その活動を紹介する資料が導入部に展示されていた。

見附市とコシノさんとの関わりについての展示

見附での活動を紹介するブースに、牛の絵柄があしらわれたTシャツが展示されていた。これは2002年のTシャツデザインコンテストで見附市学校教育研究協議会長賞を受賞したもので、デザインしたのは当時小学1年生だった大箭歩さんだ。会場にはなんと社会人になった大箭さん本人が訪れており、コシノさんは思いがけない再会に大喜び。
Tシャツは背中部分にも、牛の後ろ姿がデザインされており、コシノさんは「すごくいい!」と絶賛。大箭さんは「あの頃はまだ子どもでコシノさんのすごさが分からなかったが、今思うととても貴重な経験だった」と話した。受賞のご褒美として、なんとコシノさんのご自宅に招待されるという嬉しい特典もあったそうだ。

Tシャツデザインコンテストの受賞作品。背面の絵柄は写真で紹介されているので、そちらもチェック!

若き日の足跡、コシノさんの「原点」

コシノさんは地元の進学高校、岸和田高校に進み美術部に所属。そこで描いた油彩画やヌードデッサンも展示されている。十代の頃の自身の作品を前にして「これは私の人生の原点。ずっと画家になりたいと思って、夢中で勉強していた」と振り返った。
あるとき、東京から来た美術の教師が「これだけ描けるのに、どうしてお母さんと同じ方に行かないの?」とコシノさんに声を掛けた。それをきっかけに、進路について改めて自身に問うことになる。出した結論は美術大学ではなく、姉のヒロコさんも通った東京の文化服装学院への入学だった。

高校時代に描いたデッサンの数々

文化服装学院ではデザイン科に在籍。この年の入学生は後に「花の9期生」と呼ばれ、何人もの逸材を輩出。同期には「ケンゾー」の髙田賢三、「ニコル」の松田光弘、「ピンクハウス」の金子功などがいた。
1960年には、新人デザイナーの登竜門と言われる装苑賞を最年少で受賞するという快挙を成し遂げた。その時の作品も展示されており「一番思い出のあるもの」とコシノさんは語った。

装苑賞受賞作品。当時住んでいた四畳半のアパートは、裁断で発生した繊維くずで「部屋中がブルーになった」という

一躍脚光を浴びたコシノさんは1961年に銀座小松ストアーへ、翌年には数寄屋橋ソニービルへ出店。その後『COLETTE』というブティックもオープンした。ちなみにブティックという言葉を日本で初めて使ったのはコシノさんだそう。
60年代後半には、流行の最先端だったザ・タイガース、ザ・ワイルドワンズなどのグループサウンズの衣裳を手掛けるようになる。コシノさんの店は、文化人のたまり場のような存在だったという。そんな若き日々の様子を伝える写真の数々が壁を彩っている。

当時の東京の息吹が感じられるような写真の数々

赤と黒、「対極」の世界

次のコーナーは、コシノさんらしい赤と黒のヴィヴィッドな空間になっていた。左半分が赤、右半分が黒の円が壁に掲げられ、そこには「対極」の大きな文字が。この対極という言葉とファッションが、コシノさんの中で結び付いたのは1980年代の頃だ。
母となり新たな命を授かったコシノさんは、「妊娠してスイカのように丸くなった」自身のお腹を見ながら、丸い形について考えた。そこで気付いたのが「太陽も月も、神様の作ったものはみんな丸い」ということだった。

丸という形に思いを馳せ、感じたことをデザインに託した

丸は神が宿る形…そう思ったコシノさんは、球形をデザインに取り入れて新しい表現に挑戦した。このとき誕生したコンセプトが「アール・フュチュール(未来の芸術)」だ。アール・フュチュールでコシノさんが表そうとしたのは、地球、人間、太陽、月、大気など宇宙を構成するすべて。それらを丸、四角、赤、黒などのシンプルかつ訴求力の高い形や色を使って表現している。

丸と四角で構成されたデザインの数々

美術館に広がる異空間に圧倒!

対極のコーナーの次には、がらりと雰囲気の違うシルバーとホワイトの異空間が待っている。展示されているのは、袖や裾の部分が蛇腹状の「POROPORO(ポロポロ)」というイブニングドレスだ。蛇腹の部分がコンパクトに収納できるという特徴がある。
「畳む」「重ねて納める」というのは、着物や重箱などに通じる文化だ。西洋のドレスに和の要素を持たせており、ここにも西洋と東洋の「対極」を見ることができた。

奇抜なデザインのドレスは未来や宇宙を感じる

コシノさんは1996年にキューバでファッションショーを行っている。プロのモデルではななく、ダンサーが衣裳をまとって躍るというスタイルでショーは進行した。そこに登場したのがあの蛇腹状のドレスだ。モデルたちの生き生きとした表情から、のびやかで陽気な雰囲気が伝わってくる。ファッションショーの様子はビデオでも紹介されており、あの蛇腹状のドレスを実際に身に付けた状態を見ることができる。

キューバでのファッションショーの様子

2010年に発表されたSpike Dress(スパイク ドレス)は天衣無縫がコンセプトだという。強烈なビジュアルのこのドレス。果たして正面からみたらどうなっているのか気になっていたのだが…対面した実物はやはり強烈であった。ぜひ会場でご覧あれ。

ネオプレーン素材で作られたSpike Dress

ファッションが与える影響

人は身に付ける洋服で、印象が大きく変わる。落ち込んだときにオシャレして出掛けることで気分が晴れたり、お気に入りの洋服を着るだけで気分が良くなったりと、ファッションが与える影響は大きい。それをダイレクトに感じられる展示がDRUM TAO(ドラムタオ)のコーナーだ。
DRUM TAOは、1993年に愛知県で結成された和太鼓エンターテインメント集団で、95年に大分県に拠点を移し活動を続けている。公式サイトには世界観客動員数1000万人!伝統楽器である和太鼓を中心に圧倒的なパフォーマンスで表現する「THE日本エンターテイメント」と紹介されている。その舞台衣裳をコシノさんは手掛けている。

DRUM TAOのステージ衣装

2011年に東京公演を見たときに、コシノさんは大きな可能性を感じ「衣裳を変えたらもっと面白くなるし、ブロードウェイにも羽ばたける」と感じたという。その読みはあたり、コシノジュンコデザインの衣裳をまとったDRUM TAOは、実際に活躍の場を広げていった。

圧巻!これぞまさにランウェイ

ファッションショーは、テレビなどでその一部が放映されることはあっても、実際に観る機会はなかなかない。もし仮に生で観ることができても、次から次へとモデルたちが入れ替わっていくため、それぞれを記憶に残しおくことは難しい。コシノさんはマネキンをずらりと並べることで「制止している状態のファッションショー」を美術館に再現するという、大胆なアプローチを試みた。

コシノさんのファッションショーを楽しめる圧巻のコーナー

この企画展は万代島美術館で3会場目になるが、コシノさんは「このミュージアムだからこそ、こういう見せ方ができた。ここはすべてが完璧です」と会場を絶賛した。

担当学芸員の澤田佳三さんは「コシノ先生は20代から現在まで実に長い間、ファッションの世界で活躍し、現在もそれが続いている。それぞれの世代ごとにコシノジュンコデザインとの出会いがあったと思うが、皆さんが接しているのはその一部分だけなのでは。展覧会でその全貌を知ることで、新しいコシノジュンコの横顔が見えてくるかもしれない」と見どころを話した。

あなたのお気に入りの一着は?

10代でファッションを志し、いまだに進化を続けているコシノさん。その原動力について尋ねたところ「やろうと思ったことはすぐにやること。明日やろうという人はきっとやらない。出来ることはすぐにやる」と実に耳の痛い、けれど生涯大切にしたいと思える言葉をいただいた。
というわけで、いつか見に行こうではなく、思い立ったが吉日で、すぐにでも足を運んでほしい。

筆者の質問に思わず笑みがこぼれた

新潟県立万代島美術館
JUNKO KOSHINO コシノジュンコ 原点から現点
新潟市中央区万代島5-1 万代島ビル5階 TEL:025-290-6655
休館日:月曜日(3/25、4/1、4/29、5/6は開館)
午前10時〜午後6時(観覧券販売は閉館30分前まで)
観覧料:一般1,600円、大学・高校生1,300円、中学生以下無料

和田明子 Akiko Wada

リバティデザインスタジオスタッフ/かわいいもの探求家。 新潟日報「おとなプラス」、県観光協会のサイト、旅行情報サイトなどさまざまな媒体にライターとして寄稿し...

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